早期留学の社会学: 国境を越える韓国の子どもたち

著者:小林 和美

昭和堂( 2017-12-15 )


 外国で暮らす母子と韓国で働く父親—表紙カバーに描かれているのは、韓国で社会問題となった「キロギ家族(雁の家族)」の姿である。

 韓国では、2000年代半ばをピークに、小・中学/高校生の段階から外国(おもに英語圏)に留学する「早期留学」がブームとなった。2006年度には、3万人近くの児童・生徒が留学のため韓国を出国したとされている。

 子どもを外国の学校で学ばせるため妻子を外国に住まわせ、自らは韓国に残って働き家族の生計を支える父親たちは「キロギ・アッパ(雁のパパ)」と呼ばれ、早期留学にともなう家族別居問題の象徴的存在として注目を集めた。子どものために懸命に働き、海を越えて家族に会いに行く姿が、渡り鳥の雁を連想させることから、このように呼ばれるようになったという。

 しかし、早期留学の方法はこれだけではない。子どもを寄宿学校に入れたり、外国に住む親戚宅に預けたり、現地の家庭にホームスティさせたりする場合もあるし、留学先も欧米だけでなく、中国、東南アジア、アフリカなど、多岐にわたっている。
 本書は、韓国で早期留学ブームが起こり始めた1980年代後半から近年までの早期留学現象の推移を、グローバル化の進展および韓国の政治・経済・社会・教育の動向と絡めながら追うことにより、「韓国では、なぜ、これほど多くの人たちが大学より前の段階で子どもに海外留学をさせたのか」という疑問に答えようとしたものである。早期留学の拡大・縮小過程を統計資料、新聞・雑誌記事、既存研究などをもとに描き出すとともに、著者がインタビュー調査を通して聴き取った早期留学生やその家族の経験や思いも紹介した。
 経済のグローバル化が急速に進められるなか、1997年に小学3年生からの英語教育が導入され、2000年以降、早期留学の急激な増加がみられた韓国の動向は、グローバル化時代の子育てや人材育成のひとつの先行事例といえるだろう。早期留学を通して、韓国社会および韓国の人々の行動や意識の特徴とその変化の動向をみていただくとともに、日本に暮らす私たちがグローバル化時代にどう対応するか、子どもをどう育てていくか、考えてみていただければと思う。

 これからの教育を担う大学生にも本書を読んでもらえるよう、できるだけ平易な記述を心掛けた。グローバル化時代の家族や教育のあり方に関心をお持ちの方に、広く読んでいただければ幸いである。     (著者 小林和美)