書 名 上野千鶴子のサバイバル語録』
著者名 上野千鶴子著
発行元 文藝春秋
発行年 2019.4.10

 今年の東大入学式の祝辞において話題をさらったフェニミズムの旗手、上野千鶴子のピンクカバーの文庫本である。
本作において「男がカラダを張ってまであれほど仕事に熱中するのは……パワーゲームで争うのがひたすら楽しいからにちがいない」と看破するが、著者自身も男社会のパワーゲームに挑戦し続けたのである。
この点をふまえると、この度の祝辞は今までの戦歴をふまえた、ささやかな勝利宣言ともとれる。彼女らの起こしたパラダイムシフトは広がりを見せ、男どもは社会の構造を徐々に変えながら女性への椅子を用意しつつある。
だが著者は、女性研究者に対して「男性のパワーゲームに自分が参入しないこと」と体験者ならではのこまやかなサバイバル術を授ける。
「仕事」のほか、「人生」「恋愛・結婚」さらに「家族」「ひとり」など、それぞれについての対処法を披露しているが、著者の今日までを凝縮した想いの語録であるとともに、男どもにピンクの扉の向こう側にある、理解に乏しかった女性の感性と時代の変遷をかいま見せてくれる。
当文庫本には、ご多分にもれずに帯がついており、著者の上半身がアップされている。そのすっきり、かつ、さっぱりした表情は、フェニミズムの旗手としての女神をゆうに超えて菩薩をほうふつとさせる段階に到達しているかに思える。そこが、なかなかくせものでもあるのだが。(姶良市在住作家)