
2020.9.11 Fri
福島の原発事故から9年半。
線量計は、毎時、0.26マイクロシーベルトを表示した。
線量計を携え訪れたのは、両親が眠る福島県福島市の静かな墓地。
相変わらずの高線量だ。
私は福島在住の家族に気づかれぬよう線量計をバッグに忍ばせこっそりと計測した。
私の避難元である福島県福島市は、福島県北東部に位置する県庁所在地である。
西には奥羽山脈、東には阿武隈高地に挟まれた福島盆地にある。
この夏、避難仲間の友人の訃報に接した。
胃癌だった。
友人は福島の中学の同級生だった。
それは、関西に避難をして知ったものだった。
奇遇なことには、娘同志の年齢も同じだった。
そのため、避難先では誰よりも交流があったものだった。
私たちは共に関西の同じ避難者住宅に身を寄せていた。
避難者住宅は、災害救助法により、「みなし仮設住宅」として供給され、最長入居から6年が期限となっていた。
2016年5月、我が家は娘の進学に合わせ、友人よりひと足先に避難者住宅から退去をした。
友人と娘さんは、引き続き避難者住宅に居住し、結果、物理的に離れてしまったことや、友人の仕事が多忙になったことから、次第に交流がなくなっていったものだった。
2019年1月、支援者だった女性から衝撃的な話が飛び込んできた。
友人が胃癌で手術をし、8か月ほど入院をしていたというのだ。
私はすぐさま友人にメールをした。
すると、近況報告も兼ねて、お茶をすることになったのだった。
数日後、私たちは3年ぶりに再会をした。
場所は友人の希望もありオーガニックカフェを選んだ。
久しぶりに会う友人は、それまでと特に変わりなく、終始笑顔で胃癌発覚から入院生活までのあらましを淡々と話してくれたものだった。
さらに友人は、引き続き関西で避難生活を続けたかったが、国や福島県の帰還政策により、2019年3月末までに避難者住宅を退去しなければならないことから、避難元に帰還せざるを得ない苦悩を吐露したのだった。
それから11か月後、友人の胃癌が再発し、再入院をしたと支援者から情報がもたらされた。
私はすぐさま近況伺いのメールを入れたが、友人から返事が来ることはなく、8月、友人は力尽き、天国へと旅立ってしまったのだった。
友人の避難元は、福島市の中でもひときわ高線量として悪名高い地区だった。
それにより、友人は事故当時、彼女の娘が通う小学校の線量計測ボランティアに積極的に参加をしていた。
「計測をしているとね、校庭の中ですら場所によって線量が大きく異なるのがよくわかるのよ」
友人はよく私に話してくれたものだった。
それ故、「どこに高線量があるかわからない学校に、安心して子どもを通わせることはできない!」と、事故から9か月後の2011年12月、関西へと母子避難をしたのだった。
被ばくは、外側から受ける外部被ばくより、体内に取り込まれ、細胞を攻撃される内部被ばくの方が怖いと言われる。
その内部被ばくは、汚染された食べ物はもとより、皮膚や傷口、呼吸から取り込んだ放射性物質により起こる。
そして被ばくは積算する。
ゆえに原発作業員の被ばく線量の上限が決められ、それを超過すると作業に従事できなくなるのは周知の事実だ。
福島の原発事故後、私たちは大量に「初期被ばく」をさせられた。
記録に残る福島市の最大放射線量は毎時24.24μ㏜。
それは通常の600倍。
しかし、正確な被ばく線量はわからない。
ただ、当時の空間線量をもとに、おおよその被ばく線量は計算できるが、私の場合2011年3月15日の1時から3月26日の5時までの11日間だけで、1.5ミリシーベルトという被ばく量が弾き出された。
一般公衆の場合、実効線量限度は年間1ミリシーベルトと定められている。
それをたった数日間で受けてしまったことになる。
私は福島に居住している間、毎日夕方になると腹痛を伴わない下痢を発症した。
しかしそれは関西に避難をするとぱったりと止まったものだった。
友人はそこに9か月もの間居住し、子どもたちを守るため、高線量の中、測定に奔走していた・・・。
2020年7月29日、広島地裁で私たち原発事故被害者にとっても重要な判決が下された。
その内容はこうだ。
「黒い雨で汚染された水を飲み、汚染された食品を食べた結果の、内部被ばくを考慮する必要がある。雨が降った時間だけで扱いを分ける合理性はない」と。
そうであるならば、私たち原発事故被害者の内部被ばくもまた考慮されるべきではないのか?
JR福島駅前のベンチの放射能値は毎時0.26μ㏜を示した。
そこに幼い女の子とその母親らしき女性が腰を下ろし微笑みながら缶ジュースを飲んでいた。

私の避難元、福島県福島市。
見渡せば360度、美しい山並みが広がる。
山に囲まれた福島盆地。
広大な山の除染はできない。
9月の雨が私の頬を濡らした。
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