日常的に電車などで、女性向けの化粧品や美容整形や脱毛の広告をたくさん見かけます。現在はSNSにも場所を移して、女性たちに「美しくなろう」と日々語りかけています。
なぜ、主に女性だけが化粧をして、脱毛して、美しくなろうとするのでしょうか? 女性が美しくなろうとするのは「個人の選択」なのでしょうか? そのような素朴でありながら深い疑問に切り込んだのがシーラ・ジェフリーズの『美とミソジニー』です。
イギリスのフェミニスト学者であるジェフリーズは、美容行為を、男性支配と女性の従属を促進させる「有害な文化的慣行」としてとらえ、美容・ファッション産業と、西洋中心的・男性中心的価値観を批判的に検討しています。
実のところ、美容行為は女性個人の選択や創造的な表現とは関係がなく、むしろ男性と女性の差異を創出しながら、男性の支配と女性の従属を固定化する抑圧装置として機能していると主張しています。
さらに、化粧や脱毛やハイヒールといった日常の美容行為のみならず、豊胸手術や女性器形成手術などについても考察し、それらのポルノによる影響を明らかにしています。皮膚を切り刻んだり、身体の一部を切断する痛みをともなう美容行為を「自傷の文化」と呼び、女性が精神的・身体的に真に自由となるよう「抵抗の文化」へと転換していくことを提案しています。
韓国の「脱コルセット運動」に通じる問題意識をもった一冊であり、韓国では先に翻訳が刊行されています。ジェンダー研究、フェミニズム研究、女性と美の関係、女性の健康に関心を持つすべての方々にぜひ読んでいただきたいです。
◆書誌データ
書名 :美とミソジニーー美容行為の政治学
著・訳者 :シーラ・ジェフリーズ著 GCジャパン翻訳グループ 訳
頁数 :368頁
刊行日:2022/7/16
出版社:慶應義塾大学出版会
定価 :3520円(税込)