結婚結婚言うわりに、「結婚すること/しないこと」について本気で議論する機会が少なすぎる
人生100年時代。「人それぞれ多様な生き方があっていい」という前提が、あたりまえに共有される時代になってきていると思います。「結婚」に関しても、「既存の婚姻制度は不平等」「多様な関係性が認められるべき」という理解は一般化してきています。しかしその割に、「結婚しない」ことに関しては、未だ議論が十分に尽くされていない現状があるのではないでしょうか?
「結婚しない」人は実際、多様な状態に置かれています。たとえば、絶対に結婚しないと固く誓っている人、現行の婚姻制度に結婚を阻まれている人、婚姻制度への反対を示すためそれを利用しない人、結婚を強く望んでいるもののなかなか叶わない人、できれば結婚したいが必死になるほどではない人、ただ単に結婚しないという人、するしないになんの関心もない人。結婚しないことが「過程」という場合もあれば、「結論」という場合もあるでしょう。いずれにせよ、誰のどの選択も、本来は複雑で自由でバリエーションに富んだものであるはずです。しかしなぜだか、結婚していないことは一面的に「未婚」状態として解釈されることが多く、時に「○○さんはまだ結婚しないんですか?」と問われ、時に「いつまでも結婚できないなんて、人としてどこか問題があるんじゃないか」とまで言われてしまう始末……。
そんないびつな世界の認識に一石を投じる言葉として紹介したいのが、「非婚」です。
本書は、韓国の二人組女性YouTuberが「非婚」を実践する様子を痛快に綴ったフェミニズムエッセイです。いまでこそフェミニストとして顔を出して各種SNSを運用し、「男性中心の社会に反旗を翻し、既存の結婚制度へ反対する」意志を込めて「非婚」を語る二人ですが、以前からずっとそういった考えを持っていたわけではありませんでした。男性ウケするメイクやファッションを研究し、”人並みに”恋愛をしてきました。結婚したくて仕方がなかった時期もあったといいます。しかし、一通り経験した上で、それでもなお「もっぱら私が私として幸せに生きるため」非婚主義に至ったのです。
壁にぶつかっても、社会の「デフォルト」を覆そうと試行錯誤を繰り返し、楽しく生きていこうとする姿にはたくさんの勇気をもらえます。社会の「デフォルト」や「当たり前」に息苦しくなったら、ぜひ本書を手にとってみてください。
◆書誌データ
書名 :未婚じゃなくて、非婚です
著者 :ホンサムピギョル
訳者:すんみ・小山内園子
頁数 :256頁
刊行日:2024/1/31
出版社:左右社
定価 :1980円(税込)