性差別や性暴力の問題を、一人ひとりが自分ごととして考えていくために


☆本書のテーマ

 本書は、社会で起きている性差別や性暴力の問題を、いかに自分の問題として捉えるか、ということをテーマにしています。それは、性差別や性暴力について、知識として理解するだけでなく、今まさにこの日本社会に暮らす生身の人に起きている問題として捉え直すことを目指しているとも言えるかもしれません。おおよそ中高生くらいのヤングアダルトから読める内容ですが、年齢や性別などにかかわらず多くの人に手に取って読んでいただきたいです。

☆著者紹介

 著者の仁藤夢乃さんは、普段、一般社団法人Colaboという団体で未成年女性や若年女性たちと当事者運動をしています。その活動は、例えば夜の街でのアウトリーチ、シェルターでの保護や宿泊支援、シェアハウスでの住まいの提供など多岐に渡ります。そのなかで、性売買にかかわることになった女性たちとつながり、彼女たちと共に性売買や性搾取の実態を広め、性売買の問題を「女性の問題」ではなく「社会の問題」として提起し、声をあげてきました。

 今では広く知られるようになった「JKビジネス」という言葉も、著者が活動のなかで実態を調査し、その輪郭を明らかにしていったものです。女子中高生、ときには小学生までもが、家庭や学校など社会保障のセーフティーネットなどからはじき出され、孤立し、児童買春というかたちで男性や買春業者に取り込まれていることを告発し続け、社会に衝撃を与えてきました。日本政府は当初、児童買春の実態を認めない姿勢でしたが、今では少なくとも日本にその問題があることを認めるまでにはなりました。

大人たちの問題

 本書でも、女子中高生を取り巻く性売買の現場の実態や事件、それに関する当事者の声や周囲の声など、さまざま取り上げています。「事件」のなかには10年以上も前のものも含まれますが、根底にある性差別や性暴力の問題は、残念ながら現在に至るまで解決されていません。歴史的に綿々と続くそうした問題を「過去のもの」あるいは「ないもの」にするのではなく、現在まで続く私たち一人ひとりの問題として、共に考えたいと思っています。

 まさに今、性を売らざるを得ない状況にある中高生と、どう向き合うことができるのか。自分には縁遠い話だと感じる子にも、自分も居場所がなくてしんどいと感じる子にも、それぞれ読んでもらえたらと願っています。同時に性売買の問題は、何よりもそれを作り出し維持してきた大人たちの問題です。性売買の当事者ではない人にも、問題を知らないふり/黙認/容認してきた社会の一員としての立場が問われています。だからこそ中高生だけでなく、大人にも本書を通じてその実態を正確に認識し、学び、問い直していってもらえたらと願っています。

自分自身の加害者性や差別意識

 とりわけ、性を買うことが当然とされる社会のなかで育ってきた男性(私もその一人です)にとっては、支配・暴力と不可分である性売買の問題に気づき、批判の声を上げることは容易ではないかもしれません。自分が「当然」としてきた価値観が揺さぶられるとき、自分の「当たり前」で誰かを傷つけていたと知ったとき、痛みが伴うかもしれません。そして、自分自身(性的マジョリティなど、より優位な立場)に好都合な情報をさがして、そうしたジレンマを解消することも一つの選択かもしれません。実際、男性優位構造の社会のなかでは、男性たちにとって手頃な、傷つくことや責任を問われることを避けられ、問題を他人事のように捉える言説はあふれています。

 しかし自分が、どういう生き方や人間関係を望むのか、どういう社会で暮らしたいのかを同時に問うとき、自身のジレンマを抱え続けながら事実と向き合う立場をとることは可能だと、本書から私自身も学びました。問題意識や違和感を持ち続けるためにも、知識だけでなく、選び取る立場が問われているように感じます。性差別や性暴力を減らしていくことは、どういうことなのか。一人ひとりの読者と共に考えていけたら幸いです。


書名:10代から考える性差別・性暴力 バカなフリして生きるのやめた
著者:仁藤夢乃
項数:192項
刊行日:2025/6/10
出版社:新日本出版社
定価:1760円(税込)

10代から考える性差別・性暴力──バカなフリして生きるのやめた

著者:仁藤夢乃

新日本出版社( 2025/06/11 )