
松原文枝監督と上野千鶴子さんの上映後トーク会(7月17日)
ドキュメンタリー映画『黒川の女たち』(松原文枝監督)が7月12日から全国公開されています。
WANサイトでもお伝えしていたように、7月17日には松原文枝監督と上野千鶴子さんの上映後のトーク会もありました。
映画鑑賞後によせられた感想・レビューをいくつかご紹介します。
※作品の内容に関する記述があります。
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「正義・尊厳の回復、そして生きる自由を取り戻すこと」 ◆ 小川 佳子
いろいろ思うところ気づかされたことはあるのですが、ここでは回復について考えたいと思います。ちょうど岡野八代さんの著作を読み始めたところで、その中で慰安婦問題について「正義の回復こそが、彼女たちに尊厳を認め、彼女たちもまた、自らを自由な存在であることを意識したものであることを、公的な場で確認できる道であった」(*1)と書かれているのを見たとき、ハルエさんが自ら語ろうとし続けたのは、性接待が開拓団を救うためであったこと、その事実でハルエさんの以後の人生が決められてしまうのではなくハルエさんは自由であることを確認することで、それがハルエさんの正義の回復、尊厳の回復であったのではないかと思いました。
玲子さんの場合はお孫さんの共感と玲子さんの人生を認める言葉を得て周囲の世界との関わり方が変わりましたが、お孫さんによる認知は玲子さんには尊厳の回復を意味したのではないかと思うのです。お二人は異なる方法、異なるタイミングで、ただ過去の性暴力に踏みつぶされるのではなく、自分の意志・時間を取り戻し、尊厳を取り戻そうとされたのだと思います。元慰安婦の方たちも黒川開拓団の若い女性たちも、社会的に弱い立場ゆえに戦時性暴力にからめとられ、それでも「なかったことにできない」と、すさまじい覚悟で語られたのだろうなと、ただ思うばかりです。
そして現地で亡くなった、4人の女性は語る機会すらも奪われた。でも、この映画があることで、私たちは「語れなかった」人たちにも思いを寄せることができる。映像を生み出してくださったこと、ありがたいです。入念に取材されてきた結果ではあると思うのですが、語る側にも聞く側、撮る側にも何かのタイミングがあって、それがかみ合って奇跡のように生まれてきたもののような気がしています。ハルエさんがこの世を去られたように、これから語りを聞くことが難しくなっていくことを考えても、映像の価値は大きいと思います。
(*1 岡野八代(2015)戦争に抗する:ケアの倫理と平和の構想、岩波書店、第1刷、p.62)
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「女性の主体性と尊厳の回復」 ◆ 渡辺 知子
一番印象に残っている場面は、「手」である。
性接待を強制され、それを隠して生きてこなければならなかった、その憤りやくやしさ、つらさを伝える「手」。
伝えたいのに伝えられない、なかったことにしたくないのにそう「されられている」、そのもどかしさを伝える「手」。
その「手」が、時を経て、同じ被害にあった女性たちによる証言、孫からの承認、生き延びてくれた勇気への賞賛を通じて「笑顔」に変わる。やわらかな、尊厳を回復した「笑顔」。
この二つの「表情」を、映画という媒体を通してわたしたちに共有してくれた監督に心から感謝している。
性接待の強制を「なかったことにさせた」のは、いったい誰だったのか。
安田菜津紀さんが映画のパンフレットにこう書いている。「(性接待の強制があったことを説明する)碑文を作るにも、それに賛成反対の議論の核は皆男性たちであり、女性たちの苦しみを「ジャッジ」する側の構造そのものは、根深く残っているのではないか。」(p.35 カッコ内は筆者による追記)
そこではまたしても女性の主体性が無視されていた。
本映画は、「なかったことにはできない」歴史を伝えてくれるとともに、「なかったことにはさせない」黒川の女たち、主体性と尊厳を取り戻そうと行動する女性たちがいることもわたしたちに伝えてくれる。
監督の松原文枝さんと上野千鶴子さんの上映後のトークで、上野さんから「聞いた者の責任」の話があった。
語りを聞いた者、聞いてしまった者にはそれを伝える責任があること。
松原監督は、映画という形でその責任を果たしている。
わたしも、この映画に出会った者の責任として、この映画のことを伝えていきたい。
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映画の感想・レビューを募集しています。
字数・形式自由です。(Wordでお願いします)
原稿の送付先:info@wan.or.jp
(件名:映画『黒川の女たち』感想・レビュー)
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作品情報
『黒川の女たち』
監督 松原 文枝
語り 大竹 しのぶ
撮影 神谷 潤 金森 之雅
編集 東樹 大介
プロデューサー 江口 英明 松原 文枝
製作 テレビ朝日
配給 太秦
2025/日本/99分/ドキュメンタリー
https://kurokawa-onnatachi.jp/
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WANサイト関連リンク
◯戦後80年 ドキュメンタリー映画「黒川の女たち」7月12日全国公開 上野千鶴子氏が読み解く トラウマとスティグマからの解放 (7/17 12:15~の回上映後に上野千鶴子トークあり)
◯❗トーク時刻決定❗🎥上野千鶴子アフタートークに出演🎥 ドキュメンタリー映画「黒川の女たち」
◯ドキュメンタリー映画『黒川の女たち』へ寄せて ◆平井和子(一橋大学ジェンダー社会科学研究センター客員研究員)https://wan.or.jp/article/show/12068 映画芸術8月号より
◯ドキュメンタリー映画『黒川の女たち』鑑賞 感想・レビュー https://wan.or.jp/article/show/12025
◯もりおか女性センターフェスティバル2025『黒川の女たち』上映会 2025年9月13日(土曜)https://wan.or.jp/article/show/12067
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