
北海道大学大学院文学研究院に所属する女性教員Aさんが、大学の「女性教授増加のための加速アクションプラン」に基づき教授職に昇任されたことに端を発して、同一組織内の教員2名からハラスメントを受け、教育・研究活動が阻害されている状況があるとのことで、この間、メディアでの報道(https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1123063/)があり、北海道大学教職員組合、また京都大学職員組合文学部支部の機関誌が詳しい経緯を紹介しています。経緯の概要は、女性登用のアファーマティブ・アクションの対象となった個人にハラスメントが発生し、その被害救済を当人が組織に求めたところ、いわゆる閑職にやられるという二次被害がおきているというものです。なお、現在もその状況は解決していないようです。
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詳しい経緯については下記によくまとめられておりますのでご一読いただけますと幸いです↓↓
・北海道大学教職員組合HP https://hokudai-shokuso.sakura.ne.jp/
・京都大学職員組合文学部支部が機関誌「けやき」https://www.kyodai-union.gr.jp/keyaki-16/
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私は、学外者ではあるのですが、教員Aさんの友人であり、この件を知ることになりました。教員Aさんの関係者であるというだけでなく、本件が他人事であるとは思えず、社会的にもフェミニズムの観点からも重要と考え、この記事を書いています。
北海道大学教職員組合によると、教員Aの昇任は大学の方針と公式な手続きに基づいてなされたにもかかわらず、同一組織内の教員2名らより、教授会の場で教員A個人を否定する発言がなされたことが発端となっています。
加えて、その後の展開として、教員らによる発言の問題点を指摘してきたAさんと同じ研究室のDさんに対して、事前の相談・同意を得ずに、他講座に移動させるという不当な配置転換がおこなわれ、現在でも2人の所属先講座・研究室が未確定な状況が続いています。A、Dさんは多大な不安から心身に影響がでている状況です。
Aさん、Dさんは現在、北海道大学内でのハラスメントの申し立てをおこなっている最中です。また配置転換をめぐって北海道大学教職員組合が研究院に団体交渉の申し入れを行うなど対応がなされています。
本件は個別の事例でありながらも大学組織やアファーマティブ・アクションをめぐる構造的な問題が内包されています。
まず、文科省、大学の施策としておこなわれたアファーマティブ・アクションによって、マイノリティ当事者個人がハラスメントや攻撃の対象となることはあってはなりません。
日本国内では現在、多くの大学や企業においてDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)事業が推進されています。大学のような高等教育機関において女性やマイノリティ属性の教員が占める割合は大変低い現状があります。大学という知の生産と開かれた教育の現場において、担い手である教員の属性に大きな偏りがあることは問題があるといえます。このような差別の構造は再生産されていくため、「個人の努力」では解決がなされず、積極的な介入施策が必要であるとの考えがアファーマティブ・アクションなどの施策の基盤にあります。
しかし、日本社会では、アファーマティブ・アクションの社会的な理解と議論、導入自体が非常に遅く、他国と比較しても、制度的基盤が脆弱です(南川文里『アファーマティブ・アクション』中公新書、2024年)。差別の構造は非常に複雑であり、アファーマティブ・アクションという方法がそれらにどれほど効果的であるのか、見えづらいマイノリティとなる人への差別が生じた場合にどのように解決していくのか、さらにマジョリティとなる人が抱く不公平感にどのように対処していくのか、大学における施策は、継続的な監視、効果の吟味、構成員のフォローと同時に進めていくことが妥当であると考えます。
このように本来不平等な構造を変えるための施策が、実際には、形式的、対処療法的なものにとどまっており、女性、マイノリティ当事者をさらに見えづらい形で追い詰め苦しめることになってしまっているのではないでしょうか。そしてこのような事態は、日本社会の多くの大学、企業においてもみられるのではないでしょうか。アファーマティブ・アクションをよりよく慎重に進めるという意味で、本件はもっと多くの方に知られてほしいと考えます。
さらに、被害をうけた当事者が申し立てをしたことで不利益を被ることもあってはならないことです。一般的にも知られている通り、大学でのハラスメントの調査と認定には多くの手続きが必要で、時間がかかります。その間にも、このケースにあるように、声をあげたことで組織内にて報復的とも受け取られる措置がとられる、居づらくなるなど、被害を申し立てたことによる二次被害が続くことも現実としてあります。その間の報復や孤立、辛さに耐えぬくのが当たり前、ということでは、ハラスメント相談・解決は実際には組織のより弱い立場の人に開かれたものではないということになります。実際に、二次被害のつらさから申し立てを「しなければよかった」という悲痛な声を様々な人から何度も聞いたことがあります。二次被害の実態や、申し立てた当人が組織からケアされないことで陥る困難の実態は秘匿されやすく、社会的に認知されているとは言えません。また大学組織がケアを行うには予算も人員も必要となり、社会的な注目や議論が高まることが必須となります。
2025年にはいってから、#私が退職した本当の理由 というハッシュタグがSNSで多くの組織内でのセクハラ、パワハラ被害の経験が吐露されました。本件は、日本の組織のなかで(特に)マイノリティである人が経験する理不尽さを体現しているひとつの例であるといえます。恐らく多くの人が経験的に「知っている」ことでありながらも、組織内のことであるがゆえに秘匿され、一般的には知られることがないこと、そしてこのようなトラブルの被害者に対しては、ずっと「もう辞めたら?」という声が周囲からかけられてきたのだと思います。実際にそのように組織内でたたかうことがかなわず、「切り替え」た人も多いでしょう。ですが、#私が退職した本当の理由 というハッシュタグを辿ると、理不尽に組織を去ることとなった方々の傷がずっと癒えないままであることが伺われます。
本件が適切に対処されますよう、多くの人に知ってもらい、注視してもらえればと思います。また、組織のなかで個人(特に女性やマイノリティ)が尊厳を守られるとはどういうことか、議論につながっていくことを願っています。
今、第6次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え⽅(素案)に対するパブリックコメントが募集されています(9月15日〆切)。たとえば、この件に関わるのは、「第2分野 あらゆる分野における政策・方針決定過程への女性の参画拡大」の、「5学術分野」「エ 大学や研究機関におけるハラスメントの防止」の部分ですが、
① 大学や研究機関に対して、各種ハラスメントの防止のための取組が進められるよう必要な情報提供等を行うなど、各種ハラスメント防止等の周知徹底を行う。また、各種ハラスメントの防止のための相談体制の整備を行う際には、第三者的視点に加え、性別割合に配慮した担当者を配置するなど、真に被害者の救済となるようにするとともに、被害者の学修 ・研究環境を守る取組、再発防止のための改善策等が大学運営に反映されるよう促す。また、雇用関係にある者の間だけでなく、学生等関係者も含めた防止対策の徹底を促進する。
とありますが、この件のように、アファーマティブ・アクションをめぐり起きている事案や、被害の救済を申し立てたことで被る二次被害の防止や対策の必要性についてはまだまだ把握もされておらず、対策も念頭に置かれていないのではないでしょうか。二次被害対策が念頭に置かれていない、脆弱である環境では、被害を受けた人は安心して組織に頼ることができません!
是非、パブリックコメントを書いて、意見や要望を伝えましょう!!
WAN理事・教員 元橋利恵
【メディア報道】
北海道新聞:
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1123063/
北海道新聞のX:
https://x.com/doshinweb/status/1890011801603199389
毎日新聞
https://mainichi.jp/univ/articles/20250226/ddl/k01/040/012000c
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