
著者は、2024年までアイスランド大統領だったヨハンネソンの妻。前ファーストレディです。夫が国家元首になっても自分の仕事を続け、意見を表明する「物言うファーストレディ」がアイスランド社会を紹介する書です。
カナダ出身のライターとして、国じゅうの女性たちを取材。原著の題はSecrets of the Sprakkar; Iceland’s Extraordinary Women and How They Are Changing the World(2022)。スプラッカルとは古代アイスランド語で「並外れた、傑出した女性」の意味です。
留学先でヨハンネソンと知り合い、結婚してアイスランドへ。そこでの生活は驚きと感動の連続でした。移住のこと、育児のこと、女性の連帯のこと、企業活動のこと、メディアのこと、自然のこと、芸術やスポーツのこと、女性への暴力のこと、政治のこと―。章立ては各社会領域の説明であり、ジェダー平等意識がどの領域にも浸透しているさまのレポートでもあります。
例えば平等意識。1980年から女性が大統領の座に16年間いたことで、その時代に生まれた世代に「女性は何でもできる」という意識が芽生えました。結婚しない女性が大統領として行動することで、シングルマザーであることはスティグマでないとみなされるようになりました。
また、出産と育児。男親と女親が同じ長さの育休が取れて、国がその期間手厚い給付をします。助産師のケアも病院診察も無料。子どもを保育士に預けることは難しくないし、子連れ出勤をして授乳しながら会議で議長を務めても問題になりません。
それに、均等待遇。従業員50人以上の企業は、取締役会のジェンダー比を最低6対4にするよう法律が義務付けています。男性の報酬を女性より高く設定することも違法です。
そんな国にいる著者の行動も大胆です。ファーストレディに期待される内助の功は放棄。「各国首脳の配偶者は小道具のような扱いを受けている」とSNSで発信し、米国の有力紙にも寄稿します。公の場でスピーチを重ね、アイスランド語が母語でない移民女性にも声はあるのだと知らしめます。
「人口35万人ほどの小国だからそんなことができる」と見ることもできるでしょう。けれど、ジェンダー平等を促進する一人ひとりの熱意と行動が、今のアイスランドをつくってきたのだと本書は教えてくれます。
翻訳は8人で。日本と海外をオンラインでつなぎ、2年以上かけ完成させました。監訳アンフィルター(Unfiltered)は企業広告を受けない新興ニュースサイト。日本の大手マスコミが取り上げにくいジェンダー記事などを積極的にアップしていて、要チェックです。
◆書誌情報
書 名:ジェンダー平等世界一 アイスランドの並外れた女性たち
著 者:イライザ・リード
監 訳:メディア協同組合アンフィルター
解 説:三浦まり(上智大学教授)
頁 数:352頁
刊行日:2025/10/24
出版社:明石書店
定 価:2700円(税別)
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