明治国家が形成される時期に、女性や子どもをめぐってどのような変化があったのかを、「捨て子」「乳」という2つのテーマから探った本です。ぱっと見るとこの2つの語句には飛躍が感じられる方もいるかもしれませんが、「子どもの命をつなぐこと」という視点が通底し、歴史的な変化を捉えていきます。

この2つのテーマについて、具体的には、岡山の棄児院、福沢諭吉の乳母の雇用、新聞・雑誌のミルク広告など、多岐にわたる話題を取り上げ、掘り下げます。

「育児日記」を取り上げた部分では、母親が子育ての責任を一手に担い、役割が重視されていく様子を、わたしはすこし息苦しく感じながら読みました。しかしこれは個人個人の選択ではなく、社会が大きく関与していることを著者は読み解きます。妊娠・出産や育児だけでなく、産まない・母にならない選択をも「女性の身体と時代と社会の構造が深く絡み合う、そしていのちの尊厳にかかわる問題」(本書204ページ)として理解するのです。

「捨て子」と「乳」を、誰にでも結びつく問題として、とうぜん女性だけではなく男性にも関係する問題として捉えた本書を、ひろく読んでいただきたいと願っています。(編集者)

◆本書の目次
乳と捨て子の近世から近代へ―プロローグ
近世・近代転換期の棄児院構想
明治期の乳母をめぐる現実と言説
「母乳」の語の登場と「母乳哺育」の価値化
「捨子」から「棄児」へ
産み育てる現場に立つ―エピローグ

◆書誌データ
書 名:乳と捨て子の〈近代〉―産み育てる現場から
著 者:沢山美果子
頁 数:238頁
刊行日:2025年11月
出版社:吉川弘文館
定 価:1,980円(税込)

乳と捨て子の〈近代〉: 産み育てる現場から (歴史文化ライブラリー 626)

著者:沢山 美果子

吉川弘文館( 2025/11/25 )