ニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle)は子どもの頃受けた家庭内での性被害などの苦痛を抱えながら、カラフルで開放的な女性像「ナナ」シリーズを生み出しました。晩年には20年をかけて壮大な彫刻庭園「タロット・ガーデン」を創造。ニキの作品に込められた女性への抑圧に対する批判的メッセージ、自己開放への道程は、多くの人の心を強く揺さぶり続けています。
写真家の松本路子さんが監督を務めた 「Viva Niki タロット・ガーデンへの道」は、世界各地に作品を訪ねて撮影、写真や関係者へのインタビューを通し、様々な角度からニキの人生を見つめたドキュメンタリー映画です。(「上野千鶴子基金助成プロジェクト」映画は一部上野千鶴子基金の助成を受けて作られた。本上映会はクラウドファンディングに応じて得られた無償上映権を上野個人が提供したものである。)
本上映会では、松本監督に作品に込めた想いをお話し頂くほか、女性学研究の第一人者であり、ニキのファンでもある上野千鶴子さんの講演も予定しております。ぜひ、ご参加ください。

■日 時 2026年2月11日(水)13:00~16:30

■場 所 巣立ち会 サザン (三鷹市上連雀1-1-3)

■内 容
 第一部 上野千鶴子さん 講演「ニキと私」
 映画「Viva Niki タロット・ガーデンへの道」上映(76分)
https://nikifilm-project.com/
第二部 松本路子監督×上野千鶴子さん 対談

■主 催 社会福祉法人 巣立ち会
 共 催 WAN 

■参加費 無料

■お申し込みは Peatixから https://sudachi-kai-1.peatix.com

■登壇者
【監督】松本 路子(まつもと みちこ)〈写真家・エッセイスト〉
1970年代に日本・海外の女性運動を記録し、写真集『のびやかな女たち』としてまとめる。80年代から世界各地でオノ・ヨーコや草間彌生ら多くの女性アーティストのポートレイトを撮影し、写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』出版。そのほか著書多数。国内外の美術館に作品収蔵。被写体の存在感と個性を捉えた作品には思想や生き様まで伝えくるような力があり、高く評価されている。2024年公開のドキュメンタリー映画「Viva Niki タロット・ガーデンへの道」の監督・撮影・脚本を務めた。http://www.matsumotomichiko.com/

上野 千鶴子(うえの ちづこ)〈東京大学名誉教授・認定NPO法人WAN理事長〉
女性学・ジェンダー研究のパイオニア。セクシュアリティやケアにも関心が。WANには設立から関わって、現在3代目理事長。著書に『家父長制と資本制』『差異の政治学』『生き延びるための思想』(以上岩波書店)『ナショナリズムとジェンダー』(青土社)『<おんな>の思想』(集英社インターナショナル)『女ぎらい』(紀伊國屋書店)『女たちのサバイバル作戦』(文春新書)『ケアの社会学』(太田出版)など多数。近著に『地方女子たちの選択』(山内マリコ共著・桂書房)『上野さん、主婦の私の当事者研究につきあってください』(森田さち共著・晶文社)がある。

■監督からのメッセージ 
映画「Viva Niki タロット・ガーデンへの道」 松本路子
「ナナ」シリーズなど、カラフルでエスプリあふれる女性像で知られる、フランス生まれの造形作家ニキ・ド・サンファル(1930-2002)。 私が初めて彼女に会ったのは、1981年6月、パリ郊外の自宅を訪ねた時だった。 家の扉が開くと、にこやかに微笑むアーティスト本人が立っていた。ダイナミックな作品とは対照的に、繊細な感じの神秘的な雰囲気さえ漂わせた人だ。
1枚の肖像を撮影する予定で会いに行ったが、その自由な発想と遊び心に魅せられ、以来10数年に渡り、ニキとその作品の写真をヨーロッパ各地で撮影し続けた。
私は1970年代に、日本、ヨーロッパ、アメリカの女性運動を記録した写真集『のびやかな女たち』、80年代にニューヨークの女性100人のポートレイトを撮影した『肖像 ニューヨークの女たち』を出版。その後も世界各地の女性アーティストの肖像を撮影し続け「Portraits 女性アーティストの肖像」などの写真集を制作している。
ニキ・ド・サンファルの「ナナ」は「陽気で解放された女性像」とされる。だが、最初からナナたちが登場してきたわけではなかった。社会や自分を取り巻く環境への怒りに満ちたレリーフを制作し、そこに埋め込んだ絵具やペンキをライフルで撃つという射撃絵画の時代。その後、女たちに課せられた役割を身体に貼り付けた「赤い魔女」「花嫁」「薔薇色の出産」など、女であることを肯定しながら深い闇に落ち込むという、作者の苦悩を表現したオブジェを数多く制作している。
1960年代半ばから、女たちの身体は膨らみ始め、色も形も軽やかになっていった。「ナナ」は次第に巨大化し、ドイツ、ハノーファーの「3人のナナ」、ベルギー、クノックの子どものためのプレイハウス「ドラゴン」、パリの動く彫刻「ストラヴィンスキーの噴水」など、建築的な造形作品が生まれた。
その集大成が、イタリア、トスカーナに20年かけて創り上げた「タロット・ガーデン」。オリーブの森に、主なるタロット・カード、大アルカナ22枚を 題材にした彫刻や建造物が点在している。ニキは20代半ばにスペインでアントニ・ガウディのグエル公園を見て、いつか自分の彫刻で庭園を造りたいと思い続けていたという。
ニキから形ができつつあるという連絡を受け、建設中の「タロット・ガーデン」を訪ねたのは1985年。女神の顔を持つスフィンクスの「女帝」像が、彼女の棲家で、大きな乳房が寝室。ニキは愛の女神の胸の中で眠っていた。
その後、ニキ・ド・サンファルの写真集を出版し、何回かの写真展を行なった。時を経て、人生でやり残したことは何かと考え始めた時、あらためて彼女の人生と向き合ってみたいと思った。ひとりのアーティストの生涯を辿ることで、自らの来し方も見えてくるのではないかと考えたのだ。晩年の8年間を過ごしたアメリカ、サンディエゴを訪れ、彼女の人生最後の作品と出会いたい。そんな思いが私を衝き動かしていた。
33年ぶりに訪れた「タロット・ガーデン」で、私はかつて建設を手伝っていた村の若者たちと再会した。彼らは今もその場所を守り続けていたのだ。ニキが夢見ていた創作を共にする「家族」がそこに存在していた。
彼女は「タロット・ガーデン」を「人が幸福でいられる場所」と語っている。至るところに思いがけない仕掛けがあって、意表を突かれる。丘をめぐる人々を見ていると、子どもはもちろんのこと、誰もが見知らぬ地を探検するような驚きとわくわく感いっぱいの表情をしている。タロット・カードに託された人生の奥深い意味はともかくとして、ダイナミックで、色彩と造形のカーニバルのような空間に身を置く心地よさを味わっているのだ。
映画製作はコロナ禍で余儀なく中断されたが、ヨーロッパ各地、アメリカ、日本国内で撮影することが出来た。作品の撮影と同時に、ニキアート財団の理事でニキの孫にあたるブルーム・カルデナス、パリでのニキの大規模な回顧展のキュレター、カミーユ・モリノー、ギャラリー・オーナー、コレクター、社会学者でニキに関する著述のある上野千鶴子など、ゆかりの人々にインタヴューすることが出来たのも、貴重な体験だった。また、偶然が重なりニキ、娘、孫、曾孫と、ニキから4代にわたる女性の撮影も叶った。
多くの方々の思いや支援を受けて、映画「Viva Niki タロット・ガーデンへの道」は完成。2024年9月から2025年にかけて、劇場公開された。50年以上 にわたり写真家として仕事をしてきたが、監督、動画撮影、映像編集は初めてのことで、大きな冒険だった。
映画の中にはかつて撮影したニキ・ド・サンファルの未公開の肖像が数多く使用され、ナレーションとは別に、監督自身の独白も加えられている。今思うと、二人の女性の奇跡的で幸福な出逢いから生まれた映画ともいえる。
そして、あらためて彼女の作品が、深い思索と人生哲学によって成り立っていることを実感している。のびやかに、不屈の精神で既成の価値観と闘い続けたアーティスト、ニキ・ド・サンファル。美術館から飛び出したナナたちは、町や公園で、生きることへの讃歌と愛を高らかに歌っている。
私はこの映画で、ニキの解き放たれた創造の魂と、壮大な宇宙的空間を伝えることができたらと願っている。そしてニキが残した多くのメッセージを、次の世代にも受け渡すことができたら、とても嬉しい。