
陽の当たらなかった女性作曲家たち、シリーズV第6回は、ブラジルのカシルダ・ボルジェス・バルボサ( Cacilda Borges Barbosa )をお送りします。リオ・デ・ジャネイロで1914年に生まれ、2010年、同地で96歳で亡くなりました。
幼少から音楽に興味を持ち、家族の理解もあって、1928年、14歳でリオ・デ・ジャネイロ国立音楽学校に入学し、和声学、フーガと対位法、作曲、指揮法、声楽と発声法、そしてピアノ演奏と、多岐にわたり専門的な勉強を始めます。同じ年に最初の作品ワルツを書き、実際に出版されました。病院の資金集めに協力した作品だったそうです。また、舞踏団のためワルツやChorinhos などの作品を書き、ピアニストも務めました。ちなみにChorinhos とはブラジルの楽器を使った踊りの形式のひとつでChoro ~ショーロと同義語、「泣き」を表現しています。加えて、彼女はブラジルに電子音楽を導入した先駆的存在だったそうです。

一方、当時のブラジルにはヴィラ・ロボス(H.Villa Lobos ,1887-1957)という著名な音楽家がいました。彼は、音楽の教育は受けずとも、音楽愛好家の父や叔母の影響でブラジルの地方に出向き、民謡採取をしたり作曲をしたりと、本業と並行して絶えず音楽活動を繰り返し、海の向こうのフランスの作曲家ミヨーほか、プロ音楽家の耳に留まり、とうとう国費でパリ留学が叶い、コンサートに掛けられヨーロッパで名を馳せて行きます。1930年代にはブラジルへ帰国し、ブラジル音楽界の中心に身を置き、初代の音楽芸術長官に任命され、ブラジル音楽アカデミーも設立し、祖国の音楽発展の為に人生を捧げ、同時に自作を掲げて世界各地のコンサートに出かけました。
また、ブラジルにはシキーニャ・ゴンザーガ(1847-1935)というヴィラ・ロボスより40年前に生まれ大活躍した女性作曲家兼ピアニスト、そして女性や少数民族のためのアクティビストがいました。テレビドラマシリーズにも取り上げられるほど、現在も国民的人気があります。作品は民族音楽を取り入れたバンド音楽が多く、ソロのキーボード用編曲も数多く出ています。ゴンザーガはバルボーサが20歳くらいまで生きていたので、どこかで接点があったかもしれません。

リオ・デ・ジャネイロ国立音楽院
バルボサに話を戻しますと、上記ヴィラ・ロボスの帰国後、リオ・デ・ジャネイロでの活動の時期に、彼女は音楽学校を卒業しヴィラ・ロボスのアシスタントとなりました。かねてより政治家や役人たちは国を挙げて小学校での音楽教育の必要性を感じていたので、ヨーロッパ帰りのヴィラ・ロボスの存在は大きなものでした。そこで、地元ブラジルで音楽を基礎から学んだバルボサのような才能ある若手が、ヴィラ・ロボスの片腕となってブラジル国内の音楽教育の発展に貢献しました。
1930年以降、ヴィラ・ロボスと共に学校をけん引し、最終的にはヴィラ・ロボス音楽学校の校長職も務めました。傍ら母校の国立音楽院で室内楽の教鞭も執り、他にも作曲に関する授業~対位法、和声、などを数多くの教育機関で教鞭を執り、最終的には1973年で教授職は引退し、つい最近の2010年までご存命でした。
加えて、ダンスの振付師と共同研究の結果、独自の記号(記譜法)を編み出し楽譜に書き込みました(スペイン語のバルボサのWiki 参照)。

バルボサは国内で電子音楽を使用した先駆的な作曲家として認められた傍ら、作品は、教育的見地に立ったピアノ練習曲(1巻全6曲)、アコーディオン(全10曲)、歌曲のための作品を書きました。また数多くのフーガ、バレエ作品、弦楽四重奏等の室内楽作品、オーケストラ作品も残し、ブラジル民族音楽をテーマにした作品を多く書きました。
ブラジルの民族音楽は、リオのカーニバルで有名なサンバ、他にもボサノバ、前述のショーロ等、多数のリズムの違う音楽が存在しており、ブラジルのクラシック音楽の作曲家たちは、このような伝統の音楽を取り入れた作品を残しています。
この分野の日本の女性作曲家は金井喜久子さん、沖縄各地の民謡を一曲ずつ書き取りをし、民謡全集を上梓し毎日出版文化賞を受賞しました。ピアノ作品「月夜の乙女」は民謡「加那よー」を取り入れています。
シキーニャ・ゴンザーガについてのエッセイの際、ポルトガル語で貴重な資料を探してくれたブラジル人の友人に今回もお世話になりました。あいにくバルボサの資料はほとんど出てこなかったけれど、彼女の息子さん( Denis Borges Barbosa) は弁護士で(2016年没)、専門が知的財産権だったことから、きっとお母様の著作権を守るために尽力したのではないかと言っていました。彼の名前を冠した弁護士事務所は現在も10人の弁護士を擁し、筆頭弁護士に苗字が同じバルボサさんがいらっしゃいます。
Aline Schmidt-Zawadowski, Thank you very much for your help with the research.
本日の演奏は教育的見地に立って作曲した作品の一つ、Etudos Brasileiros para piano(ピアノのためのブラジルの練習曲)1965 年作曲、第1巻の第2番をお聞きいただきます。ブラジル独特の多種多様なリズムを学ぶと同時に音楽的表現を学ぶ意図を感じました。
参考文献)
C.Barbosa Wiki in Portogues and English Cacilda Borges Barbosa – Wikipédia,
a
enciclopédia livre Cacilda Borges Barbosa - Wikipedia
息子さんの名を冠した弁護士事務所 https://www.dbba.com.br/en/
バルボサが通った音楽院、政変によって名前を変えながら現在の名前は、リオ・デ・ジャネイロ連邦音楽院。
Escola de Música da Universidade Federal do Rio de Janeiro – Wikipédia, a enciclopédia
ヴィラ・ロボス創立の国立音楽院は本年2026年から初の女性学長~作曲家で研究者のIlza Nogueiraが就任しました。Academia Brasileira de Música – Wikipédia, a enciclopédia livre
2月末に毎日新聞デジタル版にインタビュー記事が掲載されました。Gender 特集のBeMe です。記事はWAN アーカイブに収蔵されました。BeMe:「才能は殺せない」 巨匠の陰に隠れた女性たち、残した名曲照らす光 | 毎日新聞
以下は3月11日の紙面に掲載されたものの写真です。


≪お知らせ≫
諸般の事情により少しお休みをいただきます。次回のエッセイ開始は6月15日となりますこと、ご理解いただきますよう、よろしくお願いいたします。










