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映画評『フィリップ、きみを愛してる!』 濱野千尋

2010.04.08 Thu

 腐女子ではないが、これには萌えた。怪優ジム・キャリー×怪優ユアン・マクレガーの掛け算である。

 切れ者詐欺師スティーヴンにジム・キャリー、オム・ファタル(宿命の男)のフィリップにユアン・マクレガー。ジムののびのびした奇人演技のほうが目立つが、じゅわっと心に残るのは愛されキャラを熱演したユアンだ。優しさ・嫉妬・怒り・悲しみ・希望など、恋する者が持つあらゆる感情が、ユアンのくねる全身から放出されている。

 スティーヴンは詐欺を重ねて金を稼ぎ、何度も投獄される。そしてフィリップに会いたいがために毎回エスケープするのだが、その方法たるやこれぞ脱獄アーティストと称賛したくなるほどオリジナリティに溢れている。とにかくテンポがいい。会話も面白い。だからほとんど全編笑えるのに、マイノリティたる彼らの恋心はズキューンと切ない……これって映画の黄金比ではなかろうか。 ロマンチックなキスシーンもダンスシーンもあるけど、そう美しくもないのはご愛敬。きっとこの怪優2人は甘美さよりもおっさん同士の現実味を優先したのである。

 驚くのはこの物語が実話に基づいているということ。スティーヴンのモデルとなった囚人は、いまなおテキサスの刑務所で167年の懲役を食らっているという。詐欺師とはいえ誰のことも傷つけていないのだから(あくまで映画によれば)お願い、彼を出したげて!思う存分愛させてやって!と半ば本気で思う。

初出:新潮45 2010年3月号

カテゴリー:新作映画評・エッセイ / DVD紹介

タグ:LGBT / 映画 / ゲイ / フランス映画 / 濱野千尋 / 実話

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