2010.08.27 Fri
「どんな映画が好きですか?」。これは、されると困る質問のナンバーワンだ。たくさんありすぎて絞れない、というのは表向きのいいわけで、答えようによって自分の性格がばれそうで怖い、というのが本当の理由だ。
特に初対面の場合。
「はじめまして」
「はじめまして!へえ、映画をよく見るんですね? ぼくもですよ。どんな映画が好みなんですか?」
こんな会話、ほとんど恐怖である。聞かれてたちまち赤面である。
お気に入りの下着見せて、といわれているかのように恥ずかしい。
しかし。「たったいま挨拶したばかりのひとにスカートをめくって見せるような、わたしはそんな変態じゃないんです」などと、もしも言ってしまったとしたら、ありがたい社交辞令を踏みにじることになり、今後に差し障る。
好きなものを題材にうわべの会話をするのは苦痛でしかないけれど、せこい私は相手の様子を伺い、だいたい外れなしで同意を得られる最大多数の最大幸福的映画のタイトルを挙げてお茶を濁す。もっぱらそんなふうに、意気地無しに生きている。
そんな意気地無しでも、映画評を読んだり書いたりする。読んだり書いたりする時は、誰でも遠慮がなくてバカ正直なものだと思う。読む側も書く側も、中毒的に自意識過剰なまま、文章に向き合っている。
本気で「映画を語る」文章には、その人の人生観がぶちまけられている。濁ったお茶を飲みつつ交わす、キレ味の悪い映画話とは全然違う。
映画は、みんなで疑似体験できるふたつめの人生だ。
だから、うわべではなく、本気で映画を語っていこう。
濱野千尋(ライター)
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「映画を語る」では、常連執筆陣による映画評を随時掲載します。また、晩秋には「C‐WAN(Cinema-WAN)」としてリニューアル予定です。
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