2010.12.15 Wed
先週土曜日、現在韓国で公開中の映画、「キム・ジョンウク探し(김종욱 찾기)」を見てきました。(写真1 「キム・ジョンウク探し」ポスター)大ヒットミュージカルを原作とした本作のあらすじを簡単に言うと、勤めていた旅行会社をひょんなきっかけで辞め、「初恋の人探し事務所」を開いたある男と、彼の最初の顧客であり、10年前に出会った初恋の人を忘れられないでいるある女とのラブ・コメディです。
純情さやかわいらしさを全く見せず、ミュージカルの助監督として時に頭をかきむしり怒鳴りながら仕事に生きるソ・ジウを、大ヒットを記録したドラマ「ごめん、愛してる」(ソ・ジソプの出世作です)のヒロインとして一躍有名になったイム・スジョン(1980~)。一方、「初恋の人探し事務所」を開き、ジウの初恋の人(=キム・ジョンウク)を探すこととなるハン・キジュンを、ドラマ「コーヒー・プリンス1号店」で人気を博したコン・ユ(1979~)が演じています。
ジウは、仕事中でも街を歩いていても、度々、初恋の人と出会った10年前のインドに連れ戻されます。父親のお気に入りの男性から突然プロポーズされたことで、10年前のその場所から自分が動けていないことに気付くのですが、初恋の人と会った場所や一緒に歩いた風景、別れた時の情景が度々彼女をとらえ、押し留めるのです。そうして結局仕事に生きようとする彼女を、見るに見かねた父親が無理やり事務所に連れていくところから、物語は動き始めます。
一方キジュンは、責任感が強くまっすぐで一生懸命なのは良いのですが、融通がきかず(そのために会社も辞めるはめになり)、不器用でドジでほとんどKY、頭は二八分け&しわ一つないスーツ・・・と、ムダなハリキリ具合も含めて、とにかく「あちゃ~…」なキャラクターです。
そんなキジュンは、「初恋の人探し事務所」の最初のお客様であるジウの案件を何が何でも成功させようとするのですが、ジウが提供した情報は、「キム・ジョンウク」という名前と、10年前にジウと同じインド行きの飛行機に乗っていたということだけ。キジュンは、ギリギリの違法行為も犯しながら(ちなみに韓国では、「探偵」は違法だそう)、「韓国全土のキム・ジョンウク」ファイルを作成、ジウを連れてめぼしい人に直接会いに行く・・・という地道な方法で、「キム・ジョンウク探し」を始めます。
そんなキジュンに苛立ちつつ、最初は嫌々ながらも、一緒にキム・ジョンウク探しを始めるジウ。なんとなく情けなくかっこ悪いキジュンの奮闘ぶりや二人の珍道中がとても面白いのですが、一方で、途中に挟まれるジウの追憶のなかのコン・ユ演じるキム・ジョンウクは文句なしのかっこよさで、むせかえるようなインドの色彩と風景、ざわめきと温度のなかでささやかに繰り広げられるジウとの恋が、観る者の胸をしめつけます。
そして、珍道中のなかで明かされるキジュンの初恋の思い出。ジウが大切に持ち続けているインド旅行の道中を記したダイアリー。やがて、物語は、あっけなくも切ない展開を見せていきます――。
映画の序盤では、会社を辞めたキジュンがひょんなきっかけで警察に行くことになるのですが、そこで人々が、初恋がいかに大切かを語り合う場面があり、それがキジュンの開業のヒントとなります。
「初恋」なんて・・・私はせいぜい幼稚園や小学校低学年の話だと思ってきたのですが、本作ではどちらかというと、「本気で愛した初めての人」といったニュアンスで語られています。「あなたもいますか?探したい初恋の人」というキャッチフレーズからも伺えますが、本作では、「初恋」を、心のなかに大事にしまいこんでおくようなものとして描いており、その意味ではうんざりする作品だと思われるかもしれません。
結局のところ本作は、恋というものそれ自体がそうであるように、「幻想」の物語です。ですが、10年という時をこえて度々「あの時のインド」に連れ戻され、そこから動き出すことをためらい、キム・ジョンウクとの恋の結末を見ることを恐れるジウ。そんなジウの言葉に心を動かされ、自身の過去に対する後悔をつぶやき、やがて焦るようにインドに思いをはせるキジュン・・・彼女らの姿は、人が人を記憶し、追憶し、手繰り寄せようとする有り様や、思いの来し方と行く末にいかに向き合うのかという過程を、見せてくれるような気がします。
そして、助監督という中間管理職としてスタッフを率いて舞台を作り、一方ではミュージカル俳優達との関係にも気を配り、舞台監督というハードな仕事を早く辞めて普通に結婚することを強く願う父親との葛藤もやり過ごしながら舞台の世界に生きるジウの姿は、その小さな体に反してエネルギッシュでかっこ良いことも付け加えておこうと思います。本作の監督であるチャン・ユジョン自身が、大ヒットミュージカル「キム・ジョンウク探し」の原作者であり演出者であるため、彼女自身の姿も重ね合わせながら、生き生きとしたジウが生み出されたのかもしれません。
ちなみに本作はラブ・コメディということもあり、随所に笑いが散りばめられていたのですが、印象的だったのが、キジュンが旅行会社を辞めるきっかけになった序盤のシーンでした。
上司の言うことを聞かないキジュンが罰(?)として行かされたのが、「冬のソナタ」撮影地ツアー。とは言っても、ただの添乗員としてではなく、「冬ソナ」ペ・ヨンジュンのコスプレをして、日本からの数十人の女性ファンに同行するというものだったのですが、記念撮影の際に客からセクハラを受け、「やってられるか!」と辞めてしまうのです。
ユーモアと悪意との瀬戸際ギリギリなこのシーン、場内では大きな笑いが起きていましたが、私はいたたまれないような気持ちにもなりました。一つは、私の母も含めた日本の韓流ドラマ好きのアジュンマ達がこんなふうにパロディ化されるのかという気持ち、そしてもう一つは、セクハラに怒って仕事を辞めてしまえることの強さに対して、でした。(とは言え、辞めた後ひとしきり途方に暮れ、家族からもこっぴどく怒られるのですが)
最後に、私が見に行った回では終演後に、チャン・ユジョン監督、イム・スジョン、コン・ユによる舞台挨拶がありました。零下の寒さだったからか、どことなくコン・ユが「冬ソナのヨン様ルック」だったことが面白かったのですが、2008年からの2年間の兵役服務を終えたコン・ユの本格的な復帰作ということもあり、注目を集めているようです。また、韓国映画界初のインドロケによる映像も見どころのようで、「異国的な美!」というPRの仕方が気になりつつも、あれだけ「あちゃ~・・・」だったキジュンがだんだんかっこよく見えてくるので、日本での公開は未定のようですが、機会があればぜひ!な一作です。
※写真はすべて、「キム・ジョンウク探し」ホームページ(http://www.firstlove2010.co.kr/)より。