2011.04.30 Sat
近年、春の竹の子寿司をのぞいて、自宅ではめったにお寿司を作らなくなった。巻き寿司、鯖寿司など、最後に作ったのは、いったいいつのことか。それなのに、毎年のように訪れる私の第二の故郷ドイツでは、毎回お寿司を作っている。いや、作るはめに陥っている。
1970年代後半に学生生活を送ったフランクフルトには、その頃からの友人がパートナーとともに住んでいる。いつの頃からか、ドイツの空の玄関、フランクフルト空港から彼女の家に直行し、大きなトランクを預けてドイツ国内を旅するようになった。当然だけど、帰国前にも荷造りのために彼女たちの家に立ち寄ることになる。
彼女たちは、私の顔を見ると、「今回はいつ、お寿司を食べさせてくれるの」と聞く。それで、ついつい彼女たちの大好きな鯖寿司といなり寿司、それに握りや巻き寿司まで、そして大抵の場合、彼女たちの友人の分まで作ることになるのだが、何せお寿司作りには時間がかかる。鯖には塩をして最低1時間はおき、そのあと酢に1時間程度浸し、小骨も丁寧に抜く。電気釜はないから、ご飯は吹きこぼれないように火加減に注意しなければならないし、米も、町中の日本食料品店でスペイン産こしひかりか、カリフォルニア米を仕入れなければならない。あ~あ、私の貴重なドイツ滞在時間が寿司作りに消えていく!
昨年は、日中にフランクフルトについて夜の飛行機にのる予定だったので、今回は勘弁してもらおうと、代わりに成田空港で鯖寿司を買った。15時間後にその鯖寿司を食べた友人は、二人そろって「あなたの手製の方がおいしい」と・・・。結局、一日早くフランクフルトに到着して、寿司の仕込みをするはめに。
彼女たちのためにお寿司を作りつづけて30年以上。押し寿司用の箱や巻きすなど、お寿司作りにかかせないいろんな道具は家においてあるし、のり、昆布、しいたけ、お酢なども、折々、日本から持参する。一度、ドイツでは入手できない丸大豆醤油をもっていったら、友人いわく、「醤油なんて、どれも同じだと思っていたけど、こんなに違うんだ!」そう、味の違いがわかる彼女たちだからこそ、ついついお寿司を作ってしまうのです。
この30年間、ドイツの魚事情はずいぶん変わった。1970年代後半には、新鮮な魚が入手できたのは、週1回、キリスト教徒が魚を食べる日の前日だけ。目が真っ赤なくたびれた鯖や鯛が、値段も下げずにそのまま売っている。日本なら、誰も買わないだろうな・・・。80年代には、やはり週1回、新鮮な魚を山積みしたトラックがイタリアからやってきた。その日に仕入れたイカで塩辛を作ったり、タコを一匹ゆでて冷凍にしたり、大きなマグロの切り身を日本人の友人たちと分けあったり。鯛のお寿司もよく作ったが、鱗をとるのが大変だった。
その頃はまだ日本料理店でしか食べられない高級品だったお寿司は、ベルリンの壁の崩壊後にベトナム人経営の寿司屋が出現して大衆品に。ビュッフェ形式のパーティにまで寿司が登場するようになった。21世紀が近づく頃には、お寿司は町中で簡単に買える食べ物になり、今では普通のスーパーでさえ、鉄火巻きやキュウリ巻き、そして北の海の定番サーモン巻きが買えるようになった。昔は自分で魚をさばいていたが、今では、魚屋(といっても、もちろん特定の)が「三枚おろし?」と聞いてくれる。色の変わった魚を店頭に並べているのは相変わらずだが、「今日来たのないの?」と問えば、冷蔵庫からおもむろに新鮮な魚をだしてくれる。ドイツ人には、魚は魚で、新鮮さなんて関係ないらしい。地中海のマグロはとてもおいしいが、トロも赤身も値段の区別がないので、トロがついていればラッキー、と内心大喜び。
友人の一番のお気に入りは鯖だが、鯖寿司もいろんなバリエーションを作ったな~~~。その昔、新鮮な鯖が入手できなかったときに、山盛りの針ショウガと市で買った紫蘇をはさんだ押し寿司を作ったが、これが大好評。友人は、ついに紫蘇を育てはじめた。米酢がないときにワイン酢で代用したこともあるが、そのときはバジルを加えてイタリア風に。お寿司がドイツの日常に溶け込んでいる今でも、鯖寿司は簡単には買えない「とし子・スペシャル」だ。
今回のメニューは、その鯖をメインに、マグロ、エビ、タコ、サーモン、イクラの握り、いなり寿司に巻き寿司、そして鉄火とキュウリ巻き。
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