エッセイ

views

2344

晩ごはん、なあに?(10) 南アフリカでインド料理を  楠瀬佳子  

2011.09.30 Fri

  この8月に1年半ぶりに南アフリカのケープタウンを訪れた。ケープタウンは私にとって第二の故郷のようなところで、20年前から行き来している。アパルトヘイト(人種隔離政策)を強行に押し進めてきた南アフリカは、1994年に初めてアフリカ人に選挙権を与え、あらゆる差別を排し、民主国家に生まれ変わった。

 ケープタウンではさまざまな民族集団の人びとが暮らしているので、アフリカ、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアを体験することにもなる。最近ではインド系の南アフリカ人とのつきあいがあり、一緒に料理を作って食事をする機会が増えた。仲のいい友人どうしが気軽に食材を持ち寄り、思い思いのインド料理を作る。誰の家も広々とした台所があり、誰もがどこにお鍋があり、どこにナイフがあるか知っている。女どうしが台所でおしゃべりをしながら、あれこれの料理を作っていくさまは、まさにKitchen Tableを囲んだ女のスペースだ。アメリカ黒人女性バーバラ・スミスがオードレ・ロードのアドバイスを受け、1980年に”Kitchen Table”出版社を起こしたことを思い出させる。

  8月7日(日曜日)、友人がステレンボッシュで一緒に食事をしようと誘ってくれた。ステレンボッシュはケープタウンから50キロ東にあり、車で1時間ほどのところにある。友人の家に女3人で訪ねることになった。広々とした台所から外に見える山々はまだまだ冬の気配だ。

 そこに着くなり、ブラミは持参のお鍋でフィッシュ・カレーを作りはじめた。私はいつものように巻き寿司を持参した。卵焼き、キュウリ、人参、椎茸入りのシンプルな巻き寿司だが、大好評なので作っていくことにしている。すばやくお皿に盛りつけて、大きなKitchen Tableの上におく。その横にはフランスパンとチーズがおいてある。料理を作りながら、スターターとしてお寿司をつまんだり、パンを食べたりしながら、カレーができるのを待つ。

 ブラミのカレーは、ガーリックとタマネギのみじん切りをオイルのなかで素早く炒める。その間、私はトマトを下し金ですりおろす。急いでいるときはトマトをすりおろすのがいいそうだ。そしてトマトを入れ、静かにオイルが表面にあがってくるまで、かき混ぜないで辛抱強くまつ。カルダモン、コリアンダー、クミン、ペパーなどをすりつぶして、マサラやチリなどと一緒に鍋に入れる。そしてじっくりと煮詰めてから、最後に魚の切り身を入れる。ブラミは、その間お鍋の蓋をまるで赤ん坊をあやすかのように、手でなでつづける。お鍋はピカピカに光り、料理に愛情をいっぱい詰め込んでいく。アフリカ人の友人の家でも、お鍋はまるで宝物のように、ピカピカにして棚に陳列しているのが印象的だ。

 カレーができたあと、シブスは5分で料理を作った。エビをガーリックオイルでフライをするだけだったが、エビに塩こしょうとマサラで下ごしらえをして、1時間ほど冷蔵庫で寝かせていた。ほかには、常備食なのか、ビーンカレーも出来上がっていた。この後も同じメンバーで何度も食事をする機会があったが、メイン料理はカレーで、それぞれの家庭の味となり、バラエティに富んでいることを改めて知った。

  私が作るカレーはどことなく違う。スパイスの使い方がどうも違うようだ。東アフリカのケニアに住む友人から教わったムチュージ料理は、あまり辛いスパイスを使わないシンプルな味のするムチュージだ。共通しているのは、トマトベースであり、いっさい水を使わないで、キャベツなどの野菜からでてくる水分だけで煮込んでいく。肉汁が結構おいしい味をだし、スパイスはコリアンダーやマサラを少し使う程度。

 私はアフリカに出かける度に、種々のスパイスを買うことにしている。今回はヨハネスブルグのメイフェアにある「カシュミリ・スパイス」店で基本的なスパイスを購入した。いろんなスパイスを混ぜ合わせたマザー・イン・ロウ(義母)は激辛だ。世界中どこでも嫁と姑の関係は辛口なのだと笑った。スパイスはインドから輸入したものだが、新鮮でおいしいし、激安。インド系の家庭には必ずスパイス入れがあり、どんな料理にどのスパイスを入れるのかを誰もが知っている。私もスパイス入れを購入し、きちっとスパイスについて学びたいと思った。

 今回はヨハネスブルクで友人のパートナー(ボビー)から手ほどきを受け、Indian Delightsというレシピ本を手本に、カレーの基本を学んだ。クミン、チリー、ターメリック、コリアンダー(ダニア)等のスパイスをどの程度、どの段階で使うのかも教わった。ボビーは娘から料理のレシピを聞かれた機会に、本格的に料理を学び始めたという。40数年も料理に関心がなかったが、いまは料理を作ることが楽しいという。

 あと、私のもてなし料理の定番はサモサだ。これは東アフリカのケニアで学んだが、インド人がアフリカに持ち込んだ料理の一つだ。オイルにガーリックを入れて、焦がさないようにいためる。ミンチ肉、みじん切りしたタマネギ、トマト、ジャガイモ、人参、ペパーなど入れて炒める。最後に塩、コショウ、マサラ、ダニア、クミンなどを入れて味付けをする。さめてから、三等分に切り分けた春巻きの皮に包んで三角形にする。それをオイルであげると出来上がり。パーティには欠かせない一品。

カテゴリー:晩ごはん、なあに?

タグ: / アパルトヘイト / 楠瀬佳子 / 南アフリカ