エッセイ

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Legal Services for Prisoners with Childrenのこと【サンフランシスコ便り(10)】堀川弘美

2012.02.16 Thu

私がカリフォルニアに来てずっとボランティアをさせてもらっているNon Profit Organization:Legal Services for Prisoners with Childrenのことをお話ししたいと思います。

そもそも、私がどうしてこのNPOのことを知り得たのか。それは、日本語版も出ている『1000人のピースウーマン』という映画が媒介してくれた出会いでした。それは「ノーベル平和賞の受賞者はなぜ男ばかり?」という問いの元に、ノーベル平和賞に1000人の女性たちを推薦しようという壮大なプロジェクトを追ったドキュメンタリー映画でした。2005年のノーベル平和賞に1000人の女性をノミネートしようとスイスの女性が2003年に立ち上がり、2005年、154カ国の国と地域から1000人の女性が平和賞にノミネートされました。日本からも沖縄で、「軍隊・基地を許さない行動する女たちの会」の高里鈴代さんらがノミネートされました。名前や顔がさらされると身に危険が及ぶ可能性があるため、名前も顔も伏せた女性たちも少なくなかったようです。そんな過酷な状況下で生きているすばらしい女性たちとの出会いを導いてくれた映画でした。

その中で、Ellen Barryというカリフォルニア在住の弁護士で刑務所に関わる運動を立ち上げ、活動している女性がいることを知ったわけです。その名前を便りに、彼女が立ち上げたオフィス:Legal Services for Prisoners with Childrenを訪ねたのが最初でした。残念なことに、彼女は三年前にそのオフィスを去り、今は違う場所で活動をされています。何度かお会いしたが、まだまだ話足りないので、帰国前までに必ずゆっくりお話しする時間を作りたいと思っています。

彼女は1978年にLegal Services for Prisoners with Childrenを立ち上げました。その名の通り、最初は特に刑務所に入っている母親とその子供に関わる支援を提供することを目的に立ち上げられたそうです。また、出所後の雇用や家の賃貸の問題、大規模に受刑者にアンケート調査を行い、受刑者の方々が何を必要としているのかを把握し、それに応じたワークショップや授業などを提供する活動もされてきており、今もそれは継続して行われている。7月にPelican Bay State PrisonのSecurity Housing Unitで起こり、カリフォルニア中に、またいくつかの州へと拡散したハンガーストライキの際、このアンケートが非常に役立ったことを印象的に覚えています。Security Housing Unitとは通常の獄房よりも警備や監視が厳しく、「刑務所内でギャンググループとして活動した人たち」、つまりドラッグの売買を行ったり、何か「悪いこと」をしたり、活動をした人たちなどが入れられる特別な獄房だと捉えていいと思います。ハンガーストライキの直前に行っていた、このSecurity Housing Unit内の人たちへのアンケートによって、Legal Services for Prisoners with Childrenのスタッフたちが言葉を奪われている受刑者たちの口となって、裁判でも、その他多くの場所で証言を行うことができました。

Ellenと。真ん中がEllen。

今、スタッフの6割以上の方々が元受刑者です。15名ほどの正規の?スタッフの方々が各自の仕事をされています。休暇も十分に取り、家族との時間も十分に取れるような配慮がなされているように思います。それを痛感したのは、移民としてアメリカに来て、働いている人たちの仕事環境の劣悪さを目の当たりにしたからです。1日でも休むと仕事を失う、という危機感、「仕事があるだけ、ましなのだ」とその劣悪な環境に有無を言わせないような構造がここにもあります。土日以外の休暇なんてありえないし、遅刻も、仕事中の電話もクビにされる原因になりうるので、仕事を失わないために、生き抜くためにひたすらに働いているイメージがあります。Legal Services for Prisoners with Childrenの人たちはいいのか、悪いのか出勤もゆっくりだし、休暇も2週間から一月単位で取っています。今は、有名になったLegal Services for Prisoners with Childrenだけれど、人として大切なものは何か、ということを見失わないで進んで行っているところが、すごい、と思います。ここに居させてもらっている私自身、日々、何を大切に生きて行ったらいいのか、教えてもらっています。

カテゴリー:サンフランシスコ便り

タグ:アメリカ / 堀川弘美 / 刑務所