2014.03.10 Mon
特別企画:第86回アカデミー賞主演女優賞ノミネート作品
☆このコーナーでは、登場人物の女性像に焦点を合わせて新作映画をご紹介します。
現代のイギリス。何かを思い詰めたような初老の女性フィロミナ。彼女は1枚の古ぼけた子供の写真を見つめ、涙を流します。そして彼女は娘のジェーンに、50年間隠し通してきたある秘密を語り始めます。——1952年のアイルランド。10代のフィロミナは祭で出会った行きずりの男性の子を妊娠してしまう。当時、そういう少女たちはカトリック修道院に入れられて赤ん坊を出産するが、一日わずかの時間しか我が子と会えず、強制労働に従事させられる。そして、若い母親たちは一切の権利を放棄させられ、子供は幼いうちに養子に出されてしまうのだ——。フィロミナもそうやって愛する息子アンソニーと引き裂かれたが、今日がアンソニーの50歳の誕生日なのだ、と語ります。
この話はぜひ世の中に伝えるべきだと感じたジェーンは、パーティで出会った元BBC記者のマーティン・シクススミスに、記事にしてほしいと語ります。当初マーティンは、その依頼をすげなく断ります。有名ジャーナリストだったマーティンは、絶頂期に政界に転身したものの、身に覚えのないスキャンダルで失脚したばかりで、失意の中にあったのです。また、元々の高踏志向も相まって、そのような「三面記事的な人情話」には興味がないと言い切ります。
しかし、内心この話に興味を引かれたマーティンは、結局、フィロミナに会って協力を申し出ます。そして、ある雑誌で記事にすることを条件に、アンソニーが養子に出されたアメリカへ、彼の消息を探る旅に一緒に行くことを提案。こうして、世代も階級も考え方も違う男女2人の道中が始まります。
この映画は、ほとんど全編、この2人の間のやり取りがメインになっていますが、信心深く素朴で人のいいフィロミナと、無信心でエリート意識が強くシニカルなマーティンとの対照的なコンビが、一つの目的を持って旅をするうちにお互いからいろいろなことを学んでいく過程に、心を打たれます。
そして、旅の中でアンソニーをめぐるいろいろな事実が明らかになっていくのですが、フィロミナが修道院で受けた理不尽な仕打ちに、マーティンはたびたび憤慨します。おそらく多くの観客もフィロミナに寄り添って、心を痛め、時に怒りを覚えることでしょう。しかし、フィロミナは決して怒りをあらわにしません。重い事実を受け止めながら、自分の中でなんとか折り合いをつけようとします。フィロミナを演じるのは、イギリスが誇る名優ジュディ・デンチ。息子への愛と神への信仰の間で苦しみ、葛藤しつつも、全てを受け入れて許そうとするこの母の姿には、深い感動を覚えずにはいられません。もし同じ経験をしたら、私はフィロミナのようにできるだろうかと、映画を観ながら何度も自問しました。
この映画は、カトリック教会の厳格で頑迷な価値観と、その信仰が説く美しい愛と許しの教えの、両面を描いているとも言えるかもしれません。宗教が人の生き方に与える意味を、改めて考えさせられる作品です。
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Story
イギリスに住む初老の母親フィロミナはある日、娘ジェーンに、50年間隠してきた秘密を打ち明ける。1950年代のアイルランド。10代で行きずりの男性の子供を妊娠したフィロミナは、家族にカトリック修道院に入れられ、そこで男の子を出産する。しかし、その子アンソニーは幼いときに、彼女の手から奪われ養子に出されてしまったのだという。ジェーンは元BBC記者のマーティンにその話をし、記事にしてほしいと頼む。一度は断ったマーティンだが、考えを改め、フィロミナと2人でアメリカへ息子探しの旅に出ることにする——。世代も考え方も違う2人の珍道中を通じて、家族、社会、宗教の問題を深く考えさえられる、実話に基づいた人間ドラマ。
フィロミナ:ジュディ・デンチ
マーティン:スティーヴ・クーガン
ジェーン:アンナ・マックスウェル
シスター・ヒルデガード:バーバラ・シェフォード
監督:スティーヴン・フリアーズ
配給:ファントム・フィルム
2013年/イギリス・アメリカ・フランス/カラー/英語/98分
2014年3月15日より、新宿ピカデリーほか全国公開
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