2014.03.20 Thu
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☆このコーナーでは、登場人物の女性像に焦点を合わせて新作映画をご紹介します。
8月。酷暑のアメリカ・オクラホマ州。詩人でアルコール依存症の夫ベバリーが、家政婦兼看護師として雇うことにしたネイティブアメリカンの娘ジョナと、書斎で話をしています。そこに、がんを煩い薬物中毒になっている妻バイオレットが現れます。情緒不安定で、夫を罵り、まともな会話ができないバイオレット。冒頭から、すでに家族の機能不全を感じさせるシーンです。
間もなく、離れた土地に住む一家の長女バーバラの元に父ベバリーが失踪したという知らせが入り、バーバラは、別居中の夫ビルと娘ジーンを連れ、オクラホマに急ぎます。バイオレットの住む家に次々と集まってくる家族たち。実家の近くに住んで親の面倒を見ている真面目な次女アイビー。バイオレットの妹で陽気な太った叔母マティ・フェイと、その夫チャールズ。二人の息子でいつも母親に叱られている気の弱いリトル・チャールズ。自由奔放な三女カレンと、その婚約者でどこか怪しげな実業家のスティーブ。
バーバラが実家に戻ると、母バイオレットは「あんたが帰ってきてくれて良かった」と言いながらも、すぐ「父さんは長女のあんたが家を出て悲しんでいた」と娘を非難し始めます。相変わらずの独善的な母親の態度に苛つくバーバラ。そしてその夜、父の行方が明らかになります。保安官が訪れ、ベバリーの遺体が湖で発見されたと告げるのです。彼はなぜ失踪したのか。その死は事故なのか、自殺なのか——。呆然とするバーバラの傍らで、薬の影響なのか奇矯な言動をするバイオレット。そして、ベバリーの葬儀が行われ、久々に再会した家族たちの複雑に絡み合う人間関係が徐々に明らかになっていきます。
この映画の主人公である母親バイオレットを演じるのは、ハリウッド随一の演技巧者として誰もが認める大女優、メリル・ストリープ。そして、もう1人の主人公である長女バーバラを演じるのは、こちらもオスカー女優の大スター、ジュリア・ロバーツ。この2大女優ががっぷり四つに組んだ大迫力の演技は必見です。この母娘は、言ってみれば「似た者同士」。しっかり者で、強固な意志を持ち、自分が正しいと思う価値観を主張し、周囲を従わせようとします。しかしどちらも内側に、自分の健康や暮らし、配偶者や子供との関係において、大きな問題や強いストレスを感じています。その2人が久しぶりに再会し正面から向き合うとき、直後から激しいぶつかり合いが生じ、火花が散ります。愛情よりも憎しみを感じさせるほどの衝突ぶりですが、それは、実の親子だけに、互いのいい面も悪い面も全て鏡を見るがごとく見えてしまうがゆえの苛立ちであるというのが、観る者にはよく伝わってきます。
しかしながら私は、自分が正しいと信ずることをきっちりと行っているのに人生が思うようにならない、この母娘のもどかしさはよくわかるのですが、その強力なパワーの渦に否応なく巻き込まれていく周囲の人間——この2人ほど強くはない(私を含めた)普通の人々——のフラストレーションのほうに、より共感を覚えてしまいます。つまり、自らの人生を振り返ってみて、彼女たちに似た女たちに支配されてきたという経験(それが自分の母親であればいっそう深刻)を思い出すにつけ、周りを萎縮させるようなこの強い母娘をどうしても好きになれないと感じてしまうのです。しかしそれと同時に、私は「被害者」であっただけではなく、自分の中にも「プチ・バイオレット」「プチ・バーバラ」的な要素が確かにあるということに気づいて、愕然とさせられます。
この群像劇の登場人物たちは、バイオレットとバーバラのみならず全員が、それぞれ悩みと秘密を、そして家族に対する愛情と恨みを同時に抱えています。それがどのように錯綜し、収斂し、エンディングに向かっていくのか。巧みな脚本と役者たちの素晴らしい演技で最後まで目を離せない、見応えのある作品です。
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Story
8月、オクラホマ州オーセージ郡に住む父親ベバリーが突然失踪したという知らせを受け、コロラドに住む長女バーバラは夫と娘と共に、実家に残された母親バイオレットの元に車を走らせる。オーセージに一族の人間が次々と集まってくる中、ベバリーの死の知らせが保安官からもたらされる。父親はなぜ家を出、なぜ死んだのか。葬儀が行われる一方で、久々に再会した家族たちが抱える事情と秘密が徐々に明かされていく——。ピュリツァー賞・トニー賞受賞の舞台劇を、原作者トレーシー・レッツ自ら脚本を書き、豪華な俳優陣で映画化した、大迫力の家族ドラマ。
『8月の家族たち』/August: Osage County
バイオレット:メリル・ストリープ
バーバラ:ジュリア・ロバーツ
ビル:ユアン・マクレガー
ジーン:アビゲイル・ブレスリン
マティ・フェイ:マーゴ・マーティンデイル
チャールズ:クリス・クーパー
リトル・チャールズ:ベネディクト・カンバーバッチ
アイビー:ジュリアン・ニコルソン
カレン:ジュリエット・ルイス
スティーブ:ダーモット・マローニー
ベバリー:サム・シェパード
ジョナ:ミスティ・アッパム
監督:ジョン・ウェルズ
配給:アスミック・エース
2013年/アメリカ/カラー/英語/121分
2014年4月18日より、TOHOシネマズシャンテ ほかロードショー
公式HPはこちら
© 2013 AUGUST OC FILMS, INC. All Rights Reserved.
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カテゴリー:新作映画評・エッセイ / 特集・シリーズ / 映画の中の女たち
タグ:セクシュアリティ / 映画 / 母と娘 / アメリカ映画 / アカデミー賞 / 映画の中の女たち / 仁生碧 / 女と映画 / オクラホマ
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