
March winds and April showers bring forth May flowers.
三月の風と四月のにわか雨が五月の花をもたらす――そんなイギリスのことわざを思わせる小品が公開された。
孤児として生まれながら数奇な運命に導かれ、やがて〈幸福〉(=富とパートナー)をつかむシンデレラ・ストーリーは、英語圏の少女小説やライトノベル、少女マンガでおなじみ。
一九世紀英国女性作家シャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』も下敷きになっているような。ただし、より牧歌的で、ファンタジー色が強い。

ヒロイン、ベラ・ブラウンは、なにもかもきちんと秩序立てて整理しないと気がすまない図書館勤務の女の子。絵本作家になる夢をもっているが、植物が苦手で、庭は荒れ放題。
そんなある日、荒れ果てた庭を元どおりにしないとアパートから退去させると通告をうける。
こわごわ庭仕事を始めた彼女に、隣の老人が何かと口をだし、これまた奇人ぶりのいちじるしい彼の料理人が彼女を支え・・・という展開。

孤独で不器用で、堅苦しく、コミュニケーション能力に乏しいヒロイン像は、エリック・ロメールの『緑の光線』(1986)や『アメリ』(2001)のフランス娘たちを、思いきり〈英国風〉にした感じ。
感情を表に出さないイギリス人のよそよそしさを表わすのにcold fishという表現があるけれど、そんな彼女のかたくなさを、溶かしていくのが、頑固に見えて実直な隣人たちとの交流なのだ。
これってある意味、新しいタイプの英国賛歌なのですね。

ヒロイン、ベラ・ブラウンを演じるのは『ダウントン・アビー』の伯爵令嬢役で注目されたジェシカ・ブラウン・フィンドレイ。
庭を心から愛する頑固な隣の老人役は、イギリスを代表する名優、トム・ウィルキンソン。
時にゲール語をつぶやき、美味しそうなエッグ・ベネディクトでベラを癒す料理人役は、ああ、どこかで見た忘れられない顔だと思えばTVシリーズ『SHERLOCK/シャーロック』のおそるべきジム・モリアーテ役の人ではないですか。アンドリュー・スコット。アイルランド生まれだったんですね。

ラスト近く隣の老アルフィーがベラを初めて案内するお茶の場面ときたら、ため息が出るほど美しく、自然の光に満ち溢れている。
そして私たちは、ようやく、彼の〈秘密の花園〉に案内される・・・その至福のイングリッシュ・ガーデン体験を、ぜひ劇場で!
© This Beautiful Fantastic UK Ltd 2016
4月8日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
2016年/イギリス/92分/カラー/シネスコ
原題:This Beautiful Fantastic
公式サイト:my-beautiful-garden.com
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