2013.03.30 Sat
2月2日ドーンセンター(大阪府男女共同参画・青少年センター)にて開催された、『竹中恵美子著作集』完成記念シンポジウムの報告です。本シンポジウムは、「竹中理論の意義をつなぐ」と題され、日本における労働経済学とジェンダーについての最重要な理論を構築され続ける竹中恵美子先生のこれまでの功績の集大成である『竹中恵美子 著作集』(以下『著作集』)全Ⅶ巻の完成を記念し、竹中理論の意義を再確認しその継承と発展を願い企画されました。第一部では、久場嬉子さん、北明美さん、松野尾裕さんら三氏による講演、それらを受けてのディスカッション、第二部では、ドーンセンターの情報ライブラリー内に開設された「竹中恵美子」文庫のご紹介と見学会が行われました。また、膨大な内容である『著作集』をどのように読むかということについても示唆に富んだ会となりました。
最初にご登壇の久場嬉子さんのご報告は、竹中恵美子「労働の経済論」の基本的枠組み、方法論的特徴及び基本課題と、その今日的意義を軸に展開されました。
まず、「労働の経済論」の理論的枠組みとは、フェミニズムの視点からの「労働力の商品化体制」の特徴およびPW(ペイドワーク)とUP(アンペイドワーク)の概念の重要性を踏まえた上で女性労働についての考察を行うというものである。そもそも資本主義経済は、労働力という、本来商品となりえない「本源的な生産要素」をも「擬制的に」商品化する特殊な商品経済体制である。
そのため、資本主義は、労働者の故障や病気、高齢化による減耗、失業という形で現れる労働力の過剰という事態への対応、すなわち社会的セーフティネットの形成が求められる。また、それが直接的に生産される場、再生産の場が労働力には必要であり、資本主義経済においてそういった場として家庭が設定され、そこでは「家庭内労働を女性の排他的機能とする性別分業」(『著作集』第Ⅱ巻第1章より)が存在する。フェミニズムからの「労働力の商品化体制」には上記のような再生産を女性の無償労働(UW)とすることに対する視点があるが、こういったしくみは、労働市場、雇用管理、賃金の決定など、労働力のあり方に影響を与える。これらの議論について久場さんは、雇用労働の領域と再生産労働の領域とをつなげて女性労働を把握すべきであると述べられました。
また、竹中理論に関する二つ目の重要な論点として、現代社会の課題でもある、再生産やケアの社会化と日本におけるそれらの特徴の把握に関することが挙げられました。
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資本主義の発展と拡大の中で、家事労働やケア供給は商品化されるが、本来再生産に関わることは脱商品化すなわち福祉サービスとして社会が担っていくべきことである。同時に、家父長制の下で家庭内性別役割とされてきたそれらのあり方から脱していくことが必要である。しかし、日本における再生産やケアをめぐる状況はそのいずれの方向性をも持たず、ケアは女性の負荷とされてきた。こういった「日本型ケアの特質」が、ケアの社会化について考える上での現段階で重要な課題となる、という『著作集』第Ⅶ巻の内容がここでは確認されました。
ご報告では最後に、以上のような竹中理論の枠組みやそこで示された課題の持つ今日的意義について二点紹介されました。
一点目は、先に見た基本的枠組みの今日的重要性について。1980年代の「フォード体制」から今日の「ポストフォード体制」、すなわち製造業からサービス業への転換、労働のフレキシビリティ化の中では、人間の労働力を商品化するという特殊な経済体制の意味がより明確となってくる。特にケアサービスの多くは、女性によって担われ、低賃金でフレキシブルな、資本にとって都合のよい労働力となっている。こういった状況に関して、あらためて資本主義経済の「労働力商品化体制」の原型に立ち返った労働に関する考察がより重要となるということです。
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また、二点目としては、新しい「労働フェミニズム」構築のための示唆が竹中理論に十分に示されていることが確認されました。現在、労働組合のない職場への女性の大量進出が進んでいます。労組そのもののセクシズムの克服とともに、働きたい人や労組に入っていない人をも巻き込み、意識的に労働運動とフェミニズムのあり方を構築し直すことが重要となってくるということです。そしてその際には、労働のみならず生活をも視野に入れた視点が必要となる。
久場さんは、最後に、水無田気流さんよる2009年の著作『無頼化する女たち』の中の女性の子育てや仕事双方への視点に関する箇所を紹介されながら、再生産やケアをめぐる社会的なしくみと労働のあり方を包括的な視点でとらえる竹中理論の示唆を今日でこそ再確認すべきであるということを強調されました。
(報告 荒木菜穂)
※次回、シンポジウム「竹中理論の意義をつなぐ」レポート(2)は4月5日公開予定です。
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