WAN女性大学「WS/GS博士論文データベースプロジェクト」
立ち上げのお願い
                             会員 内藤和美

「WS/GS博士論文データベース」の趣旨と経緯

1970年度後半以来、日本の女性学/ジェンダー研究は、輪郭づけられた学問領域を形づくることや、大学の学部・学科の設置をめざすことよりも、あらゆる学問に視点・課題認識を持ち込む形で発展してきました。こうした発展のしかたは、日本のWS/GSの強みを形作ってきたに違いありません。一方、学部・学科の上に大学院があり、学位が授与され、そこに教育/研究者のポストがあり、人材が育ち、といった体制をもつ学問分野に比べると、知の集約・集積の点で不利な面があると言わざるを得ません。   

WS/GSの知の集積の場には、学会・研究会、少数の大学院の専攻、大学等の附属研究所、科学研究費補助金の申請細目「ジェンダー」、国立女性教育会館をはじめとする拠点施設、そしてわれらがWANのような活動があります。こうしたWS/GSの知を集積して活用する体制に新たな1つを加え、WS/GSの研究者・大学院生がまとまった研究情報を入手しやすくなるように、2011年に「WS/GS博士論文データベース」を構築しました。

実は初めからデータベースを作ろうと思っていたわけではなく、2010年より「WS/GS博士論文研究会」(杉田雅子・高橋由紀・冨永貴公・内藤和美・西山千恵子)として、実質的にWS/GSである博士論文そのものを収集し読む活動を始めたのです。博士論文に着目したのは、審査と学位授与によって研究の独創性と知見の新規性が認められており、そこに、30年間蓄積されてきたWS/GSの知の生産の独自性が表現されているに違いないと考えたからです。ところが、活動を始めてみると、特定のキーワードや学位分野によって自動的には検索されない、WS/GSの博士論文を収集すること自体の困難さに直面することになります。それを機に、WS/GSの博士論文の網羅的把握とその方法の構築を会の研究課題に加えることとなりました。この段取りを踏むと登録すべき論文をかなり把握できるという方法註1)を組み立て、250件余の論文の情報を集めた段階で、それら成果を内藤が預かって立ち上げ、以後管理運営していくことにしたのが「WS/GS博士論文データベース」です。博士論文データベースの構築・運営は、本来一個人ではなく研究機関や学会等において行われるべきですが、その意思と材料がある機を逸さずに立ち上げ、以後移管を相談していこうと決断しました。

それから5年、国立女性教育会館とWANのWebサイトにリンクを張って頂き、登録論文数は735件になりました(2017.3.20現在)。

「WS/GS博士論文データベース」の特徴   

博士論文データベースの、「国立国会図書館・国立情報学研究所博士論文書誌データベース」はじめ他の博士論文データベースにはなかなかない特徴(ウリ)は、基本的な書誌情報に加え、当該論文が所蔵されている「機関リポジトリ」と、単行本・雑誌掲載論文など論文の「公刊形」を調べて収録していることです。これら情報を加えることによって、利用者を論文そのものにつなぐことができます。

註1)把握方法

①「国立国会図書館・国立情報学研究所博士論文書誌データベース」の以下検索語による検索
ジェンダー、フェミニズム、男女平等、男女共同参画、女性学、男性学、性別役割分業、性別分業、家父長制、女子教育、婦人教育、女子労働、女性労働、婦人参政権、女性の権利

②検索語による検索で把握されない該当論文の補足
「国立国会図書館・国立情報学研究所博士論文書誌データベース」に博士後期課程とWS/GSの研究機関を共にもつ17大学、WSGSの学位論文授与の実績の多い国立大学の名称を入れて、当該大学で授与された博士論文を一覧し、その中から、WS/GSの論文に当たると考えられるものを抽出する。抽出された論文は、標題、目次、キーワード、要旨、研究者情報等により、ジェンダー平等の課題認識を以て書かれたものであるかを判断する。

ジェンダー平等の課題認識:
 以下のような要素を含む認識
・性別は本来多様だが、社会的には「女性」「男性」という2つのカテゴリーが設定されている
・経済力、意思決定(権力)、情報等々の社会資源=社会的力の、「男性」への偏在をもたらすような、性別分業の慣習・通念をはじめとする社会構造がある
・個々人は、こうした社会構造の中に置かれ、その影響を受ける(人生が性別に左右される。性別によって人生が相当程度ちがうものになる)
・生物学的に雌雄は異なるが、社会的には、人生が性別に左右される・性別の影響を受ける状態は、人生が人種に左右されてはならないのと同様、人権の観点から問題である(個人の尊重。人生は、意思と能力個性と状況によって形づくられるものであるはず)
・こうした社会構造を変革し、性別がどうであれ、個々人がその人として能力の開発発揮機会を得、行動を選択し、その人として生きて行ける社会を志向する



「WS/GS博士論文データベース」の管理運営に関する課題 

もとより博士論文の知の実りという公共財産の情報データベースの運営は個人によるべきではありません。私的活動からみんなの活動に、そしてより多くの人によって維持され活用頂けるものへと転換していかねばと思っております。
そのため、「WS/GS博士論文データベース」の管理運営の共同化~公共化にWANの活動として取り組むことを希望しております。
具体的には
(1)「WS/GS博士論文データベース」の管理運営のWANプロジェクト化
 これまで1会員である内藤が、WANWebサイトにリンクを張って頂いていると形であった「WS/GS博士論文データベース」の管理運営を、WAN女性大学のWS/GS博士論文プロジェクトの活動と位置づけて頂きたく思います。

(2)「WS/GS博士論文データベース」の対象論文把握への自己申告の導入
 当面は従来の収集方法と併せて、年1・2回、登録対象論文の自己申告を呼びかけたいと思います。

自己申告依頼項目  
 論文標題
 学位取得者(ふりがな)
 言語
 学位取得大学
 取得学位分野
 報告番号
 学位授与年
 収録リポジトリー(名称、URL)
 公刊形(図書/雑誌掲載論文)
 公刊物の標題
  出版年
  出版社
雑誌雑誌名・巻・号・頁

(3)「WS/GS博士論文データベース」のWANWebサイトへの内部化の検討
現在、データベースの運営のために使用しているサーバーを、WANのサーバーへと移し、「WS/GS博士論文データベースをWANWebサイトに内部化することを検討頂けないでしょうか。それにより、WS/GS博士論文データベースを将来にわたってより安定的に維持運営していくことができます。