日本では何故、中絶解禁が1948年と早く、避妊用ピル承認は1999年と遅れたのか。ノーグレンはこの問いに、産婦人科医会・生長の家という宗教団体・女性団体・障害者団体・家族計画団体などの集団の力学が生み出した政治過程を分析して、答える。
優生保護法の誕生が、指定医という産婦人科医団体に中絶による利益をもたらした。既得権益は強かったが、経済的理由による中絶を削れと、1970年代と1980年代の2回、生長の家が自民党政治家を味方に付けて迫った。女性団体や障害者団体はそれに反発し、経済的理由による中絶を守った。しかしこの領域を産科医団体が支配することは、覆せなかった。
産科医・女性団体・家族計画団体が1980年代半ばまでピルに反対していて、他国では1960年代から使われているのに、承認が大変遅れた。少子化に対する政府の懸念も、あったのではないだろうか。
日本の中絶は、掻爬法というWHOが奨めない方法を維持している。1970年代に中絶を解禁した諸国では吸引法が使われているし、1988年からは飲む中絶薬による手法が定着してきた。コロナ禍で、オンラインで診察し自宅に中絶薬が送られ、自分で服用して中絶するという方法も取られ、うまくいったのでポストコロナでもこの方法が取られようとしている。政府による支援があって、中絶は無料とか低額の国も多い。
日本では、初期手術で最低10万円はするし、配偶者の同意も必要だ(これは世界で11カ国のみ)。中絶薬が承認されても、10万円かかるままだとか、入院が必要になるとか言われている。
この本の原著は、2001年刊で、翻訳の旧版は2008年刊。2023年になり、岩波書店から新版を出した。中絶政策が変わりそうで変わらないのは何故か。統一教会などの宗教団体の政治関与をどう捉えれば良いのか。今読む意義は大きい。
◆書誌データ
書名 :新版 中絶と避妊の政治学
著者 :Tノーグレン
監訳 :岩本美砂子
翻訳 :塚原久美・日比野由利・猪瀬優理
頁数 :324頁
刊行日:2023/2/25
出版社:岩波書店
定価 :4,180円(税込)
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Tノーグレン著、岩本美砂子監訳、塚原久美・日比野由利・猪瀬優理翻訳『新版 中絶と避妊の政治学』 戦後日本のリプロダクション政策 中絶薬承認にあたり、日本の過去のリプ振り返る ◆投稿/岩本美砂子(監訳者)
2023.03.25 Sat
カテゴリー:著者・編集者からの紹介