
参議院選挙が終わりました。予想されていたとおり自民公明の保守連合は過半数に達せず、政局の新しい展開が期待される結果になりました。しかし、それよりも大きな話題をさらったのが参政党の躍進でした。政党結成から5年そこそこで、参議院選挙では前回は1議席のみだったのが、今回の選挙で一気に14議席へと勢力を伸ばしました。特に今回スローガンとして人目を引いたのが、「日本人ファースト」でした。アメリカのトランプ大統領の掲げる「アメリカファースト」の日本版が現れたのです。
その主張は、日本を日本人のものに取り戻すこと、日本人は今、物価高で苦しんでいる、日本人の生活がよくならないのは、昨今増えて来た外国人のせいだ、外国人が安い労働力で働くから、日本人の給料も引き下げられる、日本人は困窮しているのに、日本社会では外国人の方が優遇されている、保険料も未払いが多いのに、日本人と同じ診療が受けられるのはおかしい、だから外国人の導入を制限すべきだ、などというものです。
ここには大きな嘘がひそんでいます。外国人が日本人の賃金を引き下げていることはありません。同じ労働には同じ賃金が支払われています。厚労省に聞けばわかります。保険料の未納の割合は、外国人よりも日本人の方が高いと発表されています。参政党のスローガンは、自分たちの都合の悪いことが起ると外国人のせいにする、単純な問題そらしです。それよりも今外国人がいなくなったら、あなた方の両親の介護は誰がしてくれますか、とそれ一つ考えても、外国人排斥は理に合わないことなのです。
この政党の大声のスローガンが日本中に鳴り響いたことによって、日本人のモラル観が大きく覆されたことを悲しみます。今まで、日本人は、たとえ自分がその隣人の存在を快く思っていなくても、「出ていけ」だの「自分国に帰れ」だのと、あからさまに公の場で言うことはありませんでした。日本人が皆、心根の優しい道徳家で、立派な紳士淑女だからということではありません。もしかしたら自分もいつかそういう状況におかれるかもしれない、あるいは自分の子供が外国で不愉快な目に遭うかもしれないという自己中心的な心遣いだったかもしれませんが、隣人を直接傷つけるような言動にはコントロールが効いていました。以前にもヘイトスピーチで露骨な外国人排斥の言動はありましたが、それは一部の過激な人たちの局部的な動きでした。
ところが、今回の国政選挙に参政党が大勢の候補者を擁立して発言の場を確保して以来、こうしたストレートな排斥発言が至る所で聞かれるようになりました。その大きなうねりに対して、それをたしなめる声も届かなくなり、隣人とはなかよく暮らすべきだという最低限の良心も吹き飛ばされてしまいました。今まで日本人の理性と感性でなんとか、かけられていたブレーキがきかなくなって、恥ずかしがるどころか意気揚々と外国人を追い出そうと叫ぶ人々を見て、選挙結果以上にとても強い衝撃を受けています。
さて、今回の選挙の結果、嬉しいこともありました。女性の当選者が42人で、125人の改選議席中の33.6%を占めました。前回は35人の当選で改選議席中の28.0%で、今まででいちばん多い女性議員が誕生したことになります。参議院全体では定数が248人で、そのうち女性議員が29.8%になりました。あと一息で30%というところに迫っています。衆議院議員は総数465人中女性議員が73人で15.7%ですから、参議院の女性候補者たちとその支援者たちは頑張ったと言えます。
政党別にみると、立憲民主党が22人の当選者中女性が12人54.5%で、半数以上を女性が占めています。次が参政党で、14人の当選者中、女性当選者は7人で、同党の当選者中の半数が女性です。この2党が、国会議員の女性比率を高めるのに貢献しています。
「日本人ファースト」で外国人をしめだそうという公約の政党に女性議員が増えたということを、どう考えたらいいでしょうか。最近の課題への同党の取り組みと絡めて考えてみます。
まず、女性議員が増えて期待できるのは、選択制夫婦別姓制度の導入の実現です。ところが参政党の公約では、旧姓の通称使用を認めることを推進しようという自民党案と同じです。自民党は今回の当選者中の女性は24.1%ですが、参政党は女性が半数を占めているのですから、党内での発言力も強くできるはずです。今後の党の方針を決める際にも実力を発揮してほしいものです。女性だから選択制夫婦別姓制度を推進するとは限りませんが、現行の同姓制度で困っている人に圧倒的に女性が多いことは当選した新女性議員も知っているはずですし、その女性たちの支持で当選した人も多いはずですから、現実をよく見て行動してほしいと思います。
次に少子化対策を見てみましょう。立憲民主党や共産党の公約では、若者の所得向上を最優先に挙げていますが、参政党は自民党と同じく経済的支援を最優先としています。特に女性が仕事に就かずに子育てをする選択がしやすくなるように、子ども1人当たり10万円を給付するという公約で有権者を引きつけました。子ども1人を育てるのに10万円あげるから、女性は家庭で育児に専念せよと言うのです。これって、同党の女性党員や今回当選した女性議員が本当に考えたことでしょうか。あなた自身他人から、10万円給付するから育児に専念せよと言われて、「はい」と言いますかと聞きたいです。あなた方自身も苦労して子育てをしてきたでしょう、そしていろいろなめぐりあわせで今回は国会議員になった、自分で切り開いてきた人生ではないですか。女性の人生を政党が決めることは許されないことです。
しかも、10万円で、女性を子育てに縛り付けるという発想がおかしい。赤ちゃんのミルク代やおむつ代なら10万円で足りるかもしれませんが、女性の労働力からみたら、とても割に合いません。いったん子育てで家庭に入ってしまったら、子育てが終わっても社会に復帰するのは並大抵ではないことは、残念ながら自明の理です。女性の先の長い人生を子育て中だけにしか認めていない大変失礼な政策です。
政党の少子化対策としては、こうした女性の働き方・子育てのしかたに介入するのではなく、若い人たちがまず結婚したくなるだけの経済的安定と環境整備が先決でしょう。働くことが楽しくて経済的に見通しが立てば、結婚も子育ても人生設計に入って来るでしょう。
女性の生涯を見すえた政策と、10万円支給とは全くかけ離れています。今回当選した女性たちはこうした党の方針に従うのでしょうか。
新参議院議員になった女性たちが、外国人排斥や女性蔑視などの政策を打ち出す党首の傀儡でないことを切に祈っています。
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