
12月6日、WAN遺贈担当チームが会員向けにオンラインで「相続制度を理解し、遺言書の作成について考えるためのWANセミナー」を行った。講師はWAN理事で行政書士の渡邉愛里さん(行政書士事務所メーヴェ)。事前に申込者に「ライフプランニングノート」「遺言作成のための準備ノート」を送り、実際に手を動かして記入する時間を盛り込んだワークショップ形式の講座だった。
講師の渡邉さんは、行政書士の個人事務所を開いて8年、フェミニズムの視点を持って家族法務の仕事をしてきた。開催前には「書店などでは様々なエンディングノートが売られ、終活を考えている皆さんの関心は高いが『名前を書いただけで終わってしまった』という話をよく聞く。セミナーでは、鉛筆と消しゴムを用意して実際に書いてみることで、一歩前に進んでいただけると思う」と、参加を呼び掛けていた。
セミナー当日は冒頭にWAN副理事長で遺贈担当チーム員でもある中谷文美さんが「年齢にかかわらず、自分の人生をこれからどう生きるのかということを具体的に考えるための手段の一つとして今回、『ライフプランニング』と遺言作成のプロセスを考える機会を持ってみたいと企画した。私自身、この2冊のノートを入手していたものの、実際に自分で書くきっかけがなかった。今日は一緒に手を動かしながら参加したい」とあいさつして、渡邉さんの講座が始まった。まずは座学から。
●意思決定に関する書面は法的に判断能力がある元気な時期に準備しておく
意思決定に関する書面には「見守り契約」「財産管理委任契約」「任意後見契約」「死後事務委任契約」「医療に関する意思表示書」「遺言」などがある。
人が亡くなるまでのパターンはさまざまで、自分の意思をどこまで書面にしておくかは悩ましいところ。
意思決定に関する書面のうち、契約とあるものは、本人と相手方(専門職でなくてもよい)との二者間で行う。日本では「契約」という形をとらず、家族がカバーしてきた面が大きい。
遺言には主に自筆証書遺言と公正証書遺言がある。一定の方式に従い、遺言者の一方的・単独の意思表示によって行う。
なお、エンディングノートは気持ちや情報を整理し、希望をまとめておくものなので、法的効力はない。自分の財産について、だれにどのような形で残したいのかを考え、それを確実に実現するには「遺言」を書く必要がある。遺言は撤回・変更が可能で日付の新しいものが有効となる。
いずれの書面も法的に判断能力がある元気な時期に準備しておくことが大切だ。自治体や男女センターでの法律相談など、無料で専門家に相談できる方法もある。悩んだときは近くの専門家に相談してみることをおすすめする。
また、民間が行う高齢者サポートサービスのトラブル事例を受けて、厚生労働省老健局は注意喚起のリーフレットを作成している。タイトルは、「身元保証」や「お亡くなりになられた後」を支援するサービスの契約をお考えのみなさまへ。下記のURLから確認できる。
https://www.mhlw.go.jp/content/001262634.pdf
●相続とフェミニズム
戦前の旧民法下では女性たちは無能力者とされてきた。原則として嫡出の長男子が戸主権と家の財産を相続する家督相続では、戸主の妻は夫が亡くなっても相続人にはなれなかった。戸主以外の者が亡くなったときは遺産相続となり、戸主でない夫が亡くなった場合でも、妻が相続できるのは子どもがいない場合のみだった。配偶者である妻が相続できることになったのは戦後の1947年からだ。
フェミニズムはしょうがい者運動と出会う中で「私のことを私抜きで決めないで」という視点を獲得してきた。とはいえ、何かを決める時に知識と情報は大切だ。私自身が役に立ったと思ったおすすめ本を紹介する。
・「認知症に備える」(中澤まゆみ、村山澄江著、自由国民社)
・「70歳からの人生を豊かにするお金の新常識」(畠中雅子著、高橋書店)
・「人生100年時代の医療・介護サバイバル」(中澤まゆみ著、築地書館)
また、私が行政書士の仕事をしようと思った時に、勇気づけてくれたのは
・「女の遺言 私の人生を書く」(麻鳥澄江・鈴木ふみ著、2006年御茶の水書房)
※現在入手が難しくなっています。
という本だった。表紙に「女の遺言とは――『ひとり分』のわたしを応援する、生きることの宣言です」と書いてあり、遺言を書くことは、様々な領域で不可視化されてきた女性たちが尊厳を取り戻し、「私の人生」を遺すことでもあると教わった。
●「ライフプランニングノート」の肝は?
とりあえず「今日の気持ち」で書いてみる。日付の記入欄があるのは、気持ちは変わっていくことを前提にしているから。
・どこで(生活の場はどこにする?)
・誰に(キーパーソンを選んでおく)
・どんなサポートをしてほしいのか?(ケア内容の指示)
自分が住んでいる自治体の福祉資源はどこにあるのか、「SOS」に気づいてもらう仕組みはあるか?なども調べておこう。
●「遺言作成のための準備ノート」
まず「相続とは何か?」という定義から。
被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継させること(債務などのマイナスの財産を含む)。遺言による承継が相続人による協議に優先する。
遺言があれば、遺言内容に沿って、遺言執行者が粛々と手続きを進めることができる。自筆証書遺言を管轄の「遺言書保管所」で預かる制度(自筆証書遺言書保管制度)ができたので、ぜひ活用してほしい。保管制度を使えば、自筆証書遺言であっても家庭裁判所での検認が不要になる。保管料は1通につき3,900円(2025年12月現在)。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
渡邉さんからは遺言作成時のポイントとして次の点が紹介された。
・自分が生まれてから現在までの戸籍謄本を隙間なく取っておくこと(推定相続人を確定するため)。亡くなる前に取得した戸籍謄本は、相続発生時に再利用できるので無駄にはならない
・遺言の最後の「付言」に、相続人へのメッセージ(遺言の趣旨など)を自分の言葉で書いておく
・遺言執行者を指定する
・遺言を書き換えた時はその日付をメモしておく
・遺言執行者には最新の遺言内容を伝えておく
これからは「相続人不存在」となるケースも増えていくだろう。遺言がなく、相続人もいない場合には、最終的に財産が国庫に帰属することになる。自分が生きた証を次代に活かすためにも、遺言を書いて自分の思いを伝えていこう。
参加者からは「まず自分の戸籍を取ってみようと思った」「最初の一歩が踏み出せた気がする」などの声が聞かれた。(大田季子)
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