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蝶子・柳吉、伝説の夫婦の愛と憎 ~初読と再読 『夫婦善哉』 織田作之助

2013.03.07 Thu

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.初読美:『夫婦善哉』。はつよみでーす。いっかい読みました~。

再読子:さよこでーす。にかい読みました~。

初:ぜんざい。おやつです。でもこの小説の夫婦、甘い愛を味わうどころか、金に困りっぱなしね。

再:店をはじめちゃつぶし、はじめちゃつぶし。

初:それにしても、経済的によく保つわよね。

再:昭和14年の小説。当時の大阪の経済感覚ってこうなのかしらね。こんだけ商売かえしながらトライアル・アンド・エラーやってたらそりゃいつか経営もうまくなるわよ~。

初:商売がこんなににやりなおしきくなんて、ユートピアよね~。

再:なのにこの二人、結婚だけはやりなおさない。

初:柳吉と蝶子、商売を何度も変えながら二人の生活を作り上げようとする。割れ鍋に閉じ蓋のいいカップルなのに柳吉の父親は蝶子を許さない。

再:由緒正しい前妻を捨てて蝶子に走った息子を許せない。

初:そういえばこの二人、いつごろ籍は入れたのかしら。

再:父を無視して無理やり入れたかんじじゃないかな。前半で、前妻が籍ぬいて実家もどり、〈蝶子と世帯を持ったと聴いて、父親は怒るというより嘲笑し〉と書いてあるの。その直後、柳吉は蝶子の通帳ぜんぶ下ろして遊ぶんだけど、それって戸籍の夫だからできたことでしょ?

初:入籍して最初にしたことがそれ?! 柳吉、オニ!

再:そ。オニ。

初:は~。柳吉って道楽者で仕事しないわ、十歳年長のくせに若い蝶子を「おばはん」よばわりするわ、こんな野郎になんで蝶子はつくすのかしら。

再:これね、エステ。

初:エステ?

再:蝶子は男につくしてると血行がよくなり肌がつやつやすんの。ほらここ。〈「一人前の男に出世させたら本望や」と思うことは涙をそそる快感だった…興奮して眠れず、眼をピカピカ光らせて低い天井を睨んでいた〉。ね? 蝶子の女性ホルモンの具合がよくなってきている描写よ。

初:蝶子、マゾ?

再:ちがうちがう。柳吉を一人前の男にしあげて、柳吉のお父さんにほめられたいのよ~。

初:え~っ! まさか蝶子、本命は「お父さん」?

再:「お父さん」が代表している「世間ぜんたい」というべきかしらね。蝶子はまわりじゅうから「いい女だ」「女の鑑だ」ってゆってもいたいのよ。ぶっちゃけ男はだれだってよいの。相手がたまたま柳吉だっただけの話で。

初:えー? だって、〈蝶子は柳吉をしっかりした頼もしい男だと思い、そのように言い触らした〉。蝶子ってかわいそうなほど柳吉に惚れてしまったんだわ~。

再:ちがうちがう。いい? 〈言い触らした〉のよ。自分ひとりではイイ男って信じらんないから他人に言いふらすの。だいいち柳吉って吃音よ。〈「ラ、ラ、ライスカレーは御飯にあんじょうま、ま、まむして」〉。こんな男と会話がなりたつ?

初:じゃあ、この夫婦、しゃべっているようで、実は殆どモノローグ?

再:ふうふってたいがいそんなもんよ。

初:え、え、そ、そ、そ、そお?

再:あんたがどもらなくともよろし。つまり蝶子は、敢えて会話が成立しない男を選んだのね。蝶子ひとりが世間から褒めらても邪魔してこないような。

初:で、でも、柳吉のほうは、依存ていうか、思い切り甘えさせる蝶子の気風にぞっこん惚れてるわけで・・。

再:それはどうかな。

初:どうかなって・・。

再:再読なので、金銭出納帳つくりながら読んだんだけどね、

初:ああ、カネの出入り、激しいもんね~。

再:すると、じゃーん。ずぼらでぐうたらな柳吉のバイオリズムがわかったのです。

初:カネと元気が連動するの?

再:柳吉って、蝶子が稼いで貯めてくると、男の自信が減って、蝶子の貯金崩したり実家から借りたりしてカネ作るの。で、芸者あげて不貞しながら蕩尽すんの。柳吉の原動力はね、蝶子の愛情ではなく、おのれのカネ。

初:サ・イ・ア・ク。蝶子、逃げればいいのに。

再:だめだめ。柳吉から逃げたって散財するわ。蝶子、そういう宿命なのよ。

初:宿命?

再:モト芸者仲間で、蝶子の商売に融資してくれる人たち、覚えてる?

初:前半で果物屋資金に百円貸すおカネさんと、最後の起死回生をかけたカフェの立ち上げに無利子で千円ポーンと貸してくれる金八さんね。

再:ふたりとも名前に「カネ」があるでしょ。カネメな名前なのよ。そこいくと蝶子。「蝶」。名前に羽がはえてる。

初:もしかして、おカネが飛んでく名前?

再:そ。ぜーんぶ、なまえ。蝶子、名前が悪かった。

初:あのさ…二度読んで、それ?

再:そうよ。だってあたし、あんたの近未来だもん。 (杵渕里果)

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