ずっしり、あんこ
上野千鶴子ほか著
河出書房新社 発行
2015年10月発行

あまーい「餡」のお話。上野さんの甘い話と言えば、自伝的エッセイ『ひとりの午後に』のなかに、京都・洛北にあるおいしい和菓子屋さんの話があったなぁと思い出したら、大あたりだった。『ずっしり、あんこ』は、著名人の「餡」にまつわるお話が詰まった「おいしい文藝」だったのだ。
「これ、これ」と思い出すように上野さんの章を読む。『「けんかの達人」と呼ばれた社会学者が、その知られざる内面としなやかな暮らしを綴ったおとなのためのエッセイ集』と帯に記された『ひとりの午後に』から、「和菓子」。上野さんの知られざる内面を垣間見られる記憶に残る字面だった。

39人のあんこ話を読んでいくと、お汁粉やら最中やら、どうにもこうにも、のどがなって仕方がない。ひと口に餡と言っても、語る人の幼少期や学生時代、年取ってからと年代も、明治、戦時中、戦後と、時代も、特定も限定もない。うつりゆく時のなかで、大切なだれかと分かち合う人生のひとときに、餡は登場している。

暫し、時の垣根も一気に越えて、どこかノスタルジックなあまいお話にふれてみよう。

堀 紀美子

ずっしり、あんこ:おいしい文藝

河出書房新社( 2015-10-20 )