2020年10月27日,日本私立学校振興・共済事業団は,聖マリアンナ医科大学に対し,今年度の私学助成金を50%削減すると決定しました。不正入試が指摘されてからまもなく2年,なぜこれほど時間を要したのでしょうか。
現在,医学部入試における女性差別対策弁護団が訴訟を提起している大学は,東京医科大学,順天堂大学,聖マリアンナ医科大学の3校です。これら3校を比較しながら検討してみます。
〇東京医科大学と順天堂大学は不正な入試自体は認めている
東京医科大学は,二次試験で性別を理由に得点調整を行っていたこと自体は認めています。そして,他の大学と異なり,文科省の元科学技術・学術政策局長の子どもを不正に合格させた贈収賄事件が行われていたことが明らかになっています。そのため,女性差別の点だけでなく,贈収賄事件の点も含めて,2018年度の私学助成金が全額不交付となりました。
順天堂大学も性別により異なる合格判定基準を定めていたこと自体は認めています。そして,2018年度の私学助成金が前年と比較して25%減額されました。
東京医科大学も順天堂大学も,性別による不公正な入試を実施していたことそのものは認めていたため,私学助成金の不交付・減額の対応が早期になされました。
〇聖マリアンナ大学は認めていない
一方,聖マリアンナ医科大学は,2018年12月に文科省から性別による一律の差異を設けていることが疑われる不適切な事案と指摘されているものの,性別・現浪区分による不正を行ったことはないとして,今でもなお不正な入試を行っていたことを認めていません。
憲法23条は学問の自由を保障しており,国は,大学の自治を十分に尊重しなければなりません。そのため,文科省としては,聖マリアンナ医科大学が不正を自ら認めない以上,客観的に合理的な弁明が大学からなされるよう,時間をかけて対応しなければなりませんでした。
聖マリアンナ医科大学は,第三者委員会から性別による差別的な取扱いをしていたと認定されても,文科省が独自に行った統計学的な分析からも大学の弁明が不合理であると指摘されてもなお,一律の差別的取扱いはしていないと否認し続けてきました。
〇聖マリアンナ医科大学に対する文科省の認定と助成金の減額
2018年12月に文科省が最終とりまとめを公表してから,約1年10か月。弁明するだけの十分な時間は,聖マリアンナ医科大学に与えられたといえるでしょう。文科省は,不適切な入試があったと認めざるを得ないと認定し,社会に対して説明するよう大学に指導しました。
この文科省の認定を受け,今般,私学助成金の50%が減額されています。
順天堂大学が25%の減額にとどまったのに対し,聖マリアンナ医科大学がその倍である50%の減額になったのは,長きにわたり不正な入試を自ら認めず,不合理な弁解を繰り返すという点が考慮されたのではないでしょうか。
不正を認めた者は制裁を受け,否認し続けた者は制裁を免れる。そんな不正義は許されません。大学の自治を尊重しつつ,第三者委員会による司法調査や統計学的分析という2つの手法を用いて不正入試を認定し,聖マリアンナ医科大学に「逃げ得」を許さなかった今般の文科省の対応は,評価に値します。
〇各大学とも入試制度全体が違法とは認めていない
性別による得点調整を行っていたこと自体は認めている東京医科大学も順天堂大学も,訴訟において要旨以下のような主張をしています。
東京医科大学は,性別による得点調整は
①組織的に実施したものではなく,学長の個人的な責任であるから,大学に責任はない
②二次試験で得点調整があったとしても,一次試験に不正はないため,入学試験全体が違法ではない。
順天堂大学も,性別により異なる合格判定基準を定めていたことは認めつつ,個々の受験生との関係で,性別による異なる合格判定基準でなかったとしても不合格の方々がいるため,その方々との関係で入試に違法はないと反論しています。東京医科大学の②の反論と似ています。
〇各大学の主張は妥当か
皆さんは,各大学の主張をどのように思いますか?
例えば,会社の責任者である社長が指示を出して行わせた違法な行為が,その指示により損害を被った人との関係において,社長一人の個人的な責任で会社に責任はないと言われて,なるほどそうだ,と思いますか。
皆さんは,自分にはどうすることもできない性別という属性によって二次試験で減点されるとわかっている学校を,他の学校から選び取ってわざわざ受験しますか。
〇受験生の精神的苦痛に思いを馳せて
このコラムの読者さんも,これまでの人生の中で,何らかのテストを受けたことがおありではないでしょうか。その時に,今回の差別入試で行われていたような不正が行われていて,自分の努力の結果が公正・公平に評価されず,人生が左右されていたとしたらどのように感じますか。
私が司法試験で性別による不公正な評価を受けていたとしたら・・・・。想像しただけでも身震いがします。
これらの大学を受験した皆さんの憤りや悔しさ口惜しさを,できうる限り裁判所と社会に届け,性差別のない社会を実現していく一助になれればと思います。
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2020.11.13 Fri
カテゴリー:シリーズ / 女子受験生への応援歌