法律
相談 12:事実婚の場合、遺族年金の受給は?
2012.10.06 Sat
20歳年上の男性をパートナーとし、事実婚の状態で、10年間、二人で暮らしていました。覚悟はしていたのですが、73歳となったパートナーが今年の6月に癌で亡くなってしまいました。
先日、年金事務所をたずねたところ、「事実婚であっても、遺族年金の対象にはなる」とのことでした。
お互いに自立的に生きていたい思っていたことから、同じ住所で住民票は別々にし、それぞれが健康保険(わたしは勤務先の健康保険、パートナーは国民健康保険)に加入していました。
こうした状況で、遺族年金の受給は可能でしょうか。
現在、わたしは、1年契約で金融関係の事務職員をしており、年収は約240万円です。
<53歳、女性>
回答
回答 12:養父知美さん(弁護士)
国民年金法も、厚生年金保険法も、「この法律において、「配偶者」、「夫」及び「妻」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする」としており、婚姻届出の有無によって、区別していません(国民年金法第5条2項8号、厚生年金保険法第3条2項)。
一方で、「配偶者」として、遺族年金の受給資格が認められるためには、死亡の当時、亡くなった方によって「生計を維持」されている必要があります。法律上の妻(夫)であっても、「遺族」とはされず、遺族年金の受給資格は認められません(国民年金法第37条の2、厚生年金保険法第59条)。
年金制度の目的は、老齢や障害、死亡によっても、本人やその遺族の生活が損なわれないようにすることにあるので、法律上の婚姻の有無ではなく、夫婦としての生活実態にそくして、判断しようというものです。この点、法律婚の有無によって、「相続人」となるか否かを決する民法(民法第890条 配偶者の相続権)と異なります。
法律上の妻との離婚が成立しないままに、別の女性との同居が続いているような、いわゆる重婚的内縁関係の場合でも、法律上の妻との別居期間が20年以上の長期に渡り、婚姻関係が実態を失っていて修復の余地がないまでに形骸化しているとして、法律上の妻ではなく、事実婚の妻に対して、遺族共済年金の受給権を認めた最高裁判例があります(2005年4月21日最高裁第1小法廷判決)。
そこで、あなたの場合も、パートナーの男性が亡くなられた時点で、男性との間の事実上の婚姻関係が存在したこと、男性によって「生計を維持」されていたことが認められば、男性の遺族厚生年金(公務員の場合は、遺族共済年金)を受給することができます。
なお、国民年金(基礎年金)については、①18歳以下の子(※正確には下記の子)のある妻と、②18歳以下の子(同)にしか、遺族年金の受給資格が認められていないので(国民年金法第37条の2)、あなたは受給できません。
※18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子、または、20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子で、かつ、現に婚姻していない子
事実婚とは、婚姻の意思をもって、実質上の夫婦共同生活を営んでいることを言います。同居の事実が重要なメルクマールとなりますが、その他、双方の親族や友人たちに、近所の人たちからも「実質は夫婦」と受け止められていたかなどが問題となります。また、「生計を維持」といっても、パートナーの男性から扶養を受けていたことまでは必要でなく、生活費の全部または一部を共同にしていたことでよいようです。
住民票上、同一世帯とされ、一方を世帯主、他方の続柄を夫(未届)、妻(未届)とされていれば、それだけで、法律婚の場合に準じて、遺族年金の受給資格が認められ、専業主婦(主夫)の場合の「3号被保険者」の扱い、離婚(事実婚の解消)の際の年金分割が受けられる扱いがされています。
あなたの場合、住民票は別世帯とされていたようですが、同じ住所にされているようなので、住民票によって、同居の事実や同居の期間の証明が可能です。夫婦としての共同生活の実態があり、「生計を維持」されていたことを証明するための資料としては、挙式や新婚旅行等の写真、連名の郵便物、生命保険の受取人、賃貸借契約書、家賃や公共料金の領収書や自動引落の通帳、葬儀の喪主・会葬礼状などが考えられます。家主や民生委員、町内会長等に「生計維持・同一証明書」を作成してもらう方法もあります。
遺族年金を受給するためには、「国民年金・厚生年金保険・船員保険遺族給付裁定請求書」に必要書類を添付して提出する必要があります。「国民年金・厚生年金保険・船員保険遺族給付裁定請求書」「生計維持・同一証明書」の用紙及び記入方法、必要書類の説明は、下記よりダウンロードできます。
http://www.roumushi.jp/form/form08/005.
詳しくは、もよりの社会保険事務所にお尋ね下さい。
回答者プロフィール
養父知美
とも法律事務所は、知をもって(法律の専門家としての知識をもって)、友として(あなた自身や家族になりかわることはできないけれど、あなたの力になりたいと願う友人として)、共に(ひとりで頑張らないで、ひとまかせにしないで、一緒に)、問題解決をめざす法律事務所です。