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法律

相談 24:一人娘が「自分の戸籍をつくりたい」と言い出しました!

2014.09.10 Wed

わたしは、夫と24歳の長女との3人家族です。
娘は、現在県外の大学に通っているので私たち夫婦とは別に住み、娘の住民票は彼女が住んでいる町にあります。
その娘が、最近「成人していることだし、自分の戸籍を新しく作りたい」と言い出しました。
どうやら、イダヒロユキさんの著書を読み、シングル単位論に共感しているようなのです。
わたしも夫も娘に家系を継いでほしいとは考えていませんが、成人した子どもがひとりで新しく戸籍を作った場合に、
不都合なことがあるのかないのか、まったく見当がつかないのです。
どういうことが予想されるでしょうか。
花子/名古屋市/55歳/女/無職

回答

回答 24:養父知美さん(弁護士)

1.そもそも「戸籍」とは?
戸籍とは、人が生まれて死ぬまでの親族関係(夫婦,親子,兄弟姉妹等の関係)を登録し、証明するものです。日本国籍を持つもののみを登録するため、日本国籍の証明にもなります。出生によって登録され、結婚、離婚、養子縁組、離縁などによって、新たな身分関係が形成されるごとに、戸籍への届出が義務付けられ、戸籍に反映され、亡くなることによって、除籍されます。また、戸籍の附票には、住民票の移動の履歴が記載されます。
戸籍は、これら親族的身分関係の登録や住所の履歴を、「戸」すなわち、家族集団ごとに登録、管理する制度です。親族的身分関係の登録は、重婚の防止や、相続人の特定などに必要であり、どこの国でも、何らかの形で行われています。しかし、家族単位の国民登録制度を持つ国は少数派であり、戸籍制度を持つのは、現在では日本と台湾のみであり、韓国では2008年に戸籍制度が廃止され、個人単位の登録へと切替えられています。

2.「分籍」とは?
「分籍」とは、文字どおり、戸籍を分けることです。子どもが生まれると、出生届によって、親の戸籍に掲載されますが、子どもは、20歳をすぎるといつでも、親の戸籍から離れて自分だけの戸籍をつくることができます。そのための手続きが、「分籍」です。
手続きはいたって簡単。「分籍届」に、現在の戸籍謄本(全部事項証明)を添付して、現在の住所地、従前の本籍地、分籍後の本籍地のいずれかの市区町村役所に提出するのみです。「分籍」後の本籍地は、日本国内ならどこでも自由に選べます。「分籍届」の用紙は、役所に備え付けてあります。従前の本籍地に提出する場合は、戸籍謄本(全部事項証明)は不要。押印が必要ですが、認印でOKですし、無料です。

3.「分籍」すると、どうなるの?
「分籍」すると、従前の戸籍から除かれ(除籍)、分籍した人を筆頭者とする新しい戸籍が作られます。一度、「分籍」すると、従前の戸籍に戻ることはできなくなります。
しかし、「分籍」しても、法的には何も変わりません。氏(名字)は変わりませんし、親・兄弟姉妹・祖父母などとの身分関係にも一切、影響はありません。相続権や親族としての扶養義務なども変わりません。従って、法的には、デメリットは全くありませんし、メリットもありません。
「分籍」の効果としては、「個」として生きていくという意気込みを、戸籍という目に見える形で示すといった、精神的な意味合いのみとも言えるでしょう。しかし、「分籍」による、「個」として生きるという意思表示は、ある意味、戸籍制度の本質を打ち崩す契機をはらんでいます。

4.「戸籍」と「家制度」
戸籍制度は、国家が、人を「家」という家族集団単位で管理し、支配する目的をもって作られたものです。「家」という家族集団の範囲を示し、管理しやすい形にしたものが戸籍であり、戸籍の単位である「戸」=「家」なのです。
明治民法(1898年・明治31年施行)は、「家制度」を規定していますが、「父系」「戸主権」「男尊女卑」を内容とする「家制度」の下で、家族は、「戸主」に従うのが当然とされ、「家柄」「戸籍を汚す」「家の恥」、「世間」に顔向けできないなどとして、「個人」の幸せより、「家」の体面、「家」の利益を優先することが当然とされていました。天皇制は、家制度の最たるものですが、「親に顔向けできない」ひいては「国の父である天皇陛下に顔向けできない」として、個人より「家」、「国家」の利益優先、富国強兵へと駆り立てられていったのです。
敗戦により、「個人の尊厳」「基本的人権の尊重」「両性の平等」を基本理念とする日本国憲法制定が定められ、これに伴う民法改正(1947年・昭和22年)により、「家制度」は廃止されました。ところが、「家制度」的な意識や考え方は、未だに、根強く生き残っています。 
これを支えるのが、大幅に改正されたとはいえ、生き残った戸籍制度です。夫婦と未婚の子どもとに縮小されたとはいえ、家族単位の登録制を維持し、夫婦同「氏」とし、「戸主」に代えて「戸籍筆頭者」が置かれました。そして今なお、「○○家」「嫁をもらう」「籍を入れる」など、「氏」や「戸籍」と結びつき、「家」意識が示す言葉の数々が、そこらじゅうに転がっています。 
また、「戸籍」には、部落差別、外国人差別、婚外子差別やプライバシーとの関係でも、大いに問題があります。
「戸籍」のもつ問題点については、末尾に記載したホームページを是非ともお読みください。

4.「戸」から「個」へ
「分籍」は、家族単位の登録制度である「戸籍」制度に風穴をあけ、実質的に個人単位に近づけるものと言えるでしょう。それと同時に、家族からの「独立宣言」と自立への決意表明と言えるでしょう。
これをよい機会として、娘さんと、家族のあり方についてよく話し合って下さい。伊田広行さんの著書も、一緒にお読みになって、意見交換されるといいのではないでしょうか。 

参考
戸籍と女 養父知美
部落解放 1997年 419号 特集 戸籍を考える 解放出版社
http://www.tomo-law.net/ あなたに届け-文集

戸籍と人権 〜個人の尊重、戸籍のあり方〜 二宮周平(立命館大学法科大学院教授)
第270回国際人権規約連続学習会 世界人権宣言大阪連絡会議ニュース283号
一般社団法人部落解放・人権研究所
http://blhrri.org/info/koza/koza_0138.htm

回答者プロフィール

養父知美

とも法律事務所は、知をもって(法律の専門家としての知識をもって)、友として(あなた自身や家族になりかわることはできないけれど、あなたの力になりたいと願う友人として)、共に(ひとりで頑張らないで、ひとまかせにしないで、一緒に)、問題解決をめざす法律事務所です。

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