WANマーケットコーナーで好評連載中「金丸弘美のニッポンはおいしい!」でおなじみの金丸弘美さん。
 ご本人の自己紹介エッセイスペシャル連載「私が食ジャーナリストになった理由(わけ)」にもあるとおり、「食総合プロデューサー・食環境ジャーナリスト」としてご活躍されており、「田舎の力」を示す各地の事例を取材し、「日本の未来」を発信しています。
 ここでは「2025地方創生フォーラムin東京」に参加した金丸さんのレポートを転載します。
 (「月刊社会民主」2025年4月号に連載されている「金丸弘美の田舎力・地域力創造」の記事を編集部の許可を得て転載、これに、新たに図表を追加したものです。)

地方創生の目標は「関係人口交流」と「女性支援」

 2025年3月7日(金)「総務省:地域力創造アドバイザー会議」が開催され、地域力創造アドバイザーや自治体職員など、200名近くが参加した。
 総務省では、地域づくりをするために、先進市町村で活躍している職員や民間専門家を招聘し活用することができる制度を運営している。同省のホームページには「地域人材ネット(地域力創造アドバイザー)」という項目があり、「市町村が、地域力創造のための外部専門家(地域人材ネット)」登録者、通称「地域力創造アドバイザー」)を招聘して、地域独自の魅力や価値を向上させる取り組みに要する費用を特別交付税措置の算定対象としています」とある。
 経歴の説明とあわせて登録されているのは、職員・専門家約600名だ。
 自治体が欲しいと思う専門家がいれば、申請すれば来てもらえる仕組みだ。年度内に延べ10日以上または5回以上。最長3年間にわたり制度が使える。

外部専門家(地域力創造アドバイザー)制度

地域力創造アドバイザー取組内容分類

◉総務省 地域人材ネット(地域力創造アドバイザー)https://www.soumu.go.jp/ganbaru/jinzai/

 ただ「登録者一覧」を見ても、短い説明だけでは、どんな人かわからない。そこで今回の「総務省地域力アドバイザー会議」となったわけだ。
 今回の会議で総務省が強調したのは、「関係人口交流」と「女性支援」の推進だった。
「関係人口」とは、地域外の人材が、交流を通して地域づくりの担い手となること。「女性支援」が求められるのは、地方からの若い女性の流失しが止まらないからだ。
 地方からの女性流失は、ニュースでも大きく取り上げられていた。

地方創生2.0の「基本的な考え方」概要

◉内閣官房「地方創生2.0の『基本的な考え方』概要」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_chihousousei/pdf/gaiyou.pdf

 「地方における女性活躍」(国土交通省)という資料によれば、20から24才の就職時期の女性の都市部への転出が顕著だという。
 地方から転出する大きな理由は「やりたい仕事がない、やりがいのある仕事が地方ではみつからない」が、58.9%の高さとなっている。
 同資料は、その背景について次のようにまとめている。

・令和の現在は女性の大学進学率や労働力率が男性に近づき、共働き世帯と専業主婦世帯の比率は4対1となるなど、男女共同参画が進展している。
・にもかかわらず、年齢や役職などで社会的に地位の高い者の性別役割分担意識と若い女性の間に考え方の乖離(かいり)がある。
・こうした状況が若い女性にとっての閉塞感を生み、「地域から出たい」という思いにつながっている。

若年層の東京圏への流出

地方から転出した理由

◉国土交通省 地方における女性活躍 https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001464940.pdf

女性の働ける事業支援をしないと地方転出は止まらない

 2月20日「(一財)地域活性化センター主催・2025地方創生フォーラムin東京」が、リアルとオンライン合わせて約600名の参加で開催された。
 この財団は、総務省と全自治体と連携して地方創生を推進する役割を担っている。
 今回のテーマは「地元の出会いは企業がつくる ~オールニッポンの少子化対策とは~」で、ここでも若い女性の地方からの流失が焦点となった。

天野馨南子さんの著作

 基調講演をしたのは株式会社ニッセイ基礎研究所生活研究部人口動態シニアリサーチャーの天野馨南子さん。天野さんは、詳細なデータ分析をされており、それに基づく著作もある。
 天野さんは、「女性にとって生きがいのある働きの場を『見える化』し、事業支援をしないと、地域定着は実現しない」と指摘した。
 そして女性が流失してしまえば、結婚・出産へもつながらないわけで、さらに人口減になることにつながる。天野さんは、よく「合計特殊出生率」が高いことを、まちづくりの成功を示すものとして示す自治体があるが、これは間違いとも言う。出生率が高くとも、成人した若い人の仕事がなければ、結局は転出につながってしまうというわけだ。
 また天野さんは、「今の若い女性は男性と同様に生きがいのある仕事を望んでいる」と指摘した。にもかかわらず、地方の高齢世代には「男性は仕事、女性は育児」という性別役割意識が存在しており、若い世代との乖離を生んでいることも述べた。

◉天野馨南子『まちがいだらけの少子化対策――激減する婚姻数になぜ向き合わないのか』金融財政事情研究会、2024年
https://store.kinzai.jp/public/item/book/B/14446/

都市部でも女性の生きがいある働きの場が必要

 このフォーラムでは、東京商工会議所 地域振興部部長の清水繁さんから、都市部に出て行った女性たちを対象とした調査結果も発表された。
 それによれば、都市部であっても、女性にとってやりがいある仕事と、育児環境でも収入でも、男女ともに働ける環境がなければ、やはり結婚につながらないことなどが明らかになったという。
 都市においても、女性のやりがいのある仕事の場が必要なのだ。そして子育てには、それに見合った収入が必要。育児支援では、男性の育児休暇も推進されているが、取得率は、極めて低い。
 つまり、地方・都市部でも、女性のやりがいのある仕事、育児支援、収入の確保を支援しないと、結果的には、結婚に繋がらず、出生率減と若い世代の減少となるということとなる。

注目の和歌山県田辺市「たなべ未来創造塾」ホームページより。若い世代の事業と経歴が紹介。女性も多い。

 都市部の事例では、株式会社佐藤製作所常務取締役の佐藤修哉さんが自社で行っている女性支援事業を紹介した。佐藤制作所は東京・目黒区の学芸大学駅近く。1958年に創業された。ハンダ付けなどを得意とする金属加工を手掛ける会社だ。社員は16人で、平均年齢37.1歳。男性10人。女性6人で、20代が8人いるという。
 2021年度「東京都女性活躍推進大賞」で大賞を受賞している。
 佐藤修哉さんは3代目。入社したときは、経営は赤字で、女性ゼロ。平均年齢は約60歳。昇給・賞与なし。離職率も高かった。営業や積極的なリクルートもしたことがなかった。佐藤さんは経営や仕事内容、環境の改善に取り組み、さまざまな会社に積極的に営業をかけていった。
 SNSで仕事内容を紹介していくうちに、「仕事をしたい」という若い女性たちとの接点が生まれた。女性でも、モノづくりをしたい人がいる。そこから、女性希望者がやってみたいことを丁寧に聞いていった。「できないことは無理をさせない」「仕事の仕方は、できるだけがやさしく教える」といったことを丁寧に行ったことで女性社員が増えていった。女性たちのやりたい仕事を創出し、見える化をしたことで、新たな雇用を生み出したというわけだ。経営も黒字に転じた。
 地方での女性流失が著しいなかで、生きがいを感じられる仕事を提供する事業を支援すること、そして「見える化」を図ることが必要であることを、この事例は示している。
 すでに高知県と和歌山県田辺市などが、産官学金融連携での人材育成事業を行い、実績をあげている。若い世代の事業創出を明確にしていくことが必要だ。
 自治体によっては、移住・定住支援の制度も備えている。しかし地元の商工会や事業者のホームページで、女性が働けることをわかりやすく伝えているものは、まだ少ない。地域にも多様な仕事があることの「見える化」が必要だ。
◉「たなべ未来創造塾」ホームページ
https://tanabe.miraisouzoujuku.com/