群馬県太田市鳥山上町。農業経験ゼロから自ら野菜栽培を始め試験を繰り返し有機JAS認証の農業を展開し注目されているのが、株式会社ビオベジ代表取締役の鈴木かすみさんだ。自宅の駐車場に土を運んでもらい、そこから試験的に野菜栽培を始め、周辺の土地を借りて、徐々に広げてゆき現在は3ha。約40種類の野菜を栽培。6年かけて法人化した。共感した女性たちがスタッフとして参加。販売先は口コミとネットで広がり、今では、多くの共感者と売り先を広げている。

40種類以上の野菜をオーガニックで栽培

太田市は群馬県の南部。そのなかの鳥山上町は、人口は2954人。世帯数1310世帯の町だ(2022年)。場所は、東京・上野駅からだとJR常磐線で北千住を経て東武スカイツリーライン区間急行で館林へ。そこから東武伊勢崎線で太田駅へ。2時間3分。駅から株式会社ビオベジまでは車で10分ほどだ。そこで鈴木さんは農業を営む。畑を案内されると、ニンジン、ビーツ、カブ、レタス、ズッキーニ、トマト、ナス、玉ねぎ、などなど、さまざまな野菜が彩りも豊かに栽培されている。

野菜畑でズッキーニを手にする鈴木かすみさん

「会社名のビオベジのビオBIO(=biologique ビオロジック)は、ヨーロッパの方の有機認証のことですね。ベジはvegetable(ベジタブル)で野菜です。世界を視野に考えたネーミングにしました」と鈴木さん。

スタッフは4名。全部女性。畑は借地。借地料は1反5000円。(1反=約991.7平方メートル。300坪。約10アール)。畑は全部で3haあるが、23か所に分散している。全体の売り上げは約2000万円だ。

「日常の近所付き合い、祭りの参加などで、活動を知ってもらい、少しずつ土地を増やしてきました。農作業は、冬は8時とか8時半とから始まります。夏は早いです。6時とか7時とか。終わるまで作業する。夕方5時とか6時とか。遅いと夜8時とかになることもあります。農作業から出荷まで全部やります」

環境に配慮した農業で食料自給率をアップさせたい

作業時間の長くかかるトマト、キュウリ、ピーマン、インゲンなどは、畑の遮光のためのネットが使われ日陰で作業ができるようにしている。肌に直接日があたらないように配慮してのことだ。鈴木さんに農業を始めた理由を尋ねると次のように話してくれた。

遮光のネットが張られた畑

「食べるものは大切。私たちの体は食べたものでしか作られないです。あとはやはり食料自給率の低下っていうのもあると思う。輸入に頼っているとか、米も自給率が100%だったのに今度輸入が始まるなんて現状もあります。ここで生産できないとなると、結果的には日本としての食料自給率が,低下するのではないかと思っていまして、そういう意味でも大規模に栽培しています」

日本の食料自給率は38%(農林水産省「食料自給率に関する統計」)。ほとんどを輸入に頼っている。

鈴木さんが農業を始めたのは2019年から。その前は製鉄会社の事務職のOL。結婚して家を買い駐車場を畑にして農業が始まった。

「駐車場に土を10トン運んでもらった。3万5000円。お安くしていただいた。農業を3年間の実験的なことからスタートしました。まず全部種をまいてみた。苗を作ったりとか、直接まいたりとかして、肥料や農薬などを入れないで、どういう状態になるのかっていうところをまず観察から始めた。日本の農業って農薬を使うところから、肥料や堆肥を入れるところから始まる。でも、何も知らないところから、そもそもどうやって生育するのかっていうのが分かってないわけじゃないですか。私はまず何も入れなかったらどうなるのかっていうのを研究して、その後その野菜の肥料などの必要量を割り出して、それで、この野菜はこういう風に育つのだなっていうことを3年間かけて、自分で学んでいきました」

規模を拡大するにつれ農業用具もそろえていった

「今3haある。小さく始めて、このままじゃいかんと思って拡大してきたというところがあります。私が農家になる前は、なんとなく農薬使うのは2、3回かなって思っていたんです。例えばナスとかだと苗の段階で12回ぐらい使っていたりする。講習とかに行っても、本当に30回とか40回になってくる。このぐらい使ってくださいというマニュアルもある。それを見てちょっと衝撃を受けました。自分が思っていたよりもはるかに使われている。それと、今、絶滅危惧種が増えている。タガメとかトンボとか絶滅しかけているのです。地球の環境が変わってきている。農薬の説明としては水と二酸化炭素に分解されるから安全という話があるのですけれども、この二酸化炭素が地球温暖化の大きな原因になっているとも言われて問題にもなっている。それが河川に流れ込み海までつながって環境への影響があると思う。そういうところとかも考えて、やはり自分が環境に配慮した野菜を流通させていかないといけないと思ったのです」

ちなみに国は有機農業を推進するとしているが、国内全体でも0.7%しかない(農林水産省「有機農業をめぐる事情」)。

名古屋コーチンを平飼いしており、卵も調達できる

「除草、防虫、防除っていうのは手でやります。あとは機械で耕耘機を使っていたりとか。それとハンマーナイフモア(草刈り機)を使います。刈った草を堆肥にして土作りのためっていうのもあります。だけど、そのままトラクターをかけただけでは分解されるのに時間がかる。それで粉砕する。それによって有機物が出て、微生物がたくさん繁殖しやすいっていうのはあります。それをまた畑に還元します。肥料は有機認証のものを購入して使う場合もありますし使わない場合もあります。種はタキイ種苗のものが多いです。固定種(何代も受け継がれてきた種)も一部あります。ゴーヤとかトマトとか。初めはインターネットで入手して、その後自分の畑で繋いでいるという形です」

有機JAS認証の看板を掲示した畑

家族参加の体験農園や子供たち参加の収穫体験も開催

身近に知ってもらおうと体験教室を開催している。3月開校で1月まで。10時から12時。2週間に1回のセミナー。受講料は年間4万5000円。全体で約240坪(792平方メートル)あり、20世帯の家族が参加している。

「月暦があり、ビーツ、ズッキーニ、サツマイモ、オクラ、モロヘイヤ、ナス、ピーマン、キュウリ、トマト、インゲン、枝豆、ジャガイモ、空心菜など、季節の野菜を育てます。鍬の使い方、支柱の立てかた、なども教えます。参加者は、女性の方が多い。小さいお子さん連れで、体験したいとおみえになる。また仕事をリタイアされた方で、これから農業や、家庭菜園をされる方もいます。参加者同士が仲良くなる」

給食の連携と収穫体験も行っている。群馬県立太田特別支援学校、強戸(ごうど)こども園、認定こども園 ぽぷら、幼保連携型認定こども園、にしのもりこども園、認定こども園 友愛幼稚園 (足利市)などだ。収穫体験は月に1回。

「毎月収穫体験に来る子供達のためにも、こまめな除草作業やこども目線での仕立て、収穫のしやすい環境づくりは欠かせない。そうすれば、子供も大人も収穫がしやすい」

野菜の販売ももちろん行っている。出荷場を兼ねての事務所には「ベジーオーガニック加工直売所」がある。野菜、キムチや漬物、梅干し、お味噌、スイーツ、玄米、コールドプレスジュースなどを販売している。大きな販売先は太田市内では、JAファーマーズ太田藪塚店、野菜直売所ジェイマルシェ新田、スパーマーケットフレッセイ太田飯塚店、とりせん、マクロビキッチンfamilleなどがある。ほかに伊勢崎市、高崎市、足利市などにも出している。

出荷場を兼ねた事務所

店内で直売されている野菜

「販売はスーパーとか、あと給食、それに直売です。スーパーには配達します。16 軒ぐらいです。スーパーの「とりせん」さんの場合は、野菜を置いてほしいということでお話いただき置かせていただいています。こだわりコーナーみたいなのがある。6店舗。飲食店は10軒ぐらいです。県外もあります。今日、直接購入に来る方は埼玉県熊谷市の「自然食料理処田べい」の田部井さんとか。結構日本食の方が多いですけど、でもジャンルは問わずという感じですかね。イタリアンもあります。知ってもらうきっかけはSNSが多いです。宅急便は、本当に日本全国。小笠原諸島。石垣島とか。北海道からもあります。1日5件くらいです」

集荷されたズッキーニ

出荷作業の様子

SNSは、かなりこまやかに配信されている。毎日更新するようにしておりFacebookとインスタグラムが中心。YouTubeの動画配信も行っている。

「宅配の場合は、おまかせもオーダーも両方やっています。セットの方はSMLで1000円、2000円、3000円です。健康にこだわっている人もいますし、あとはSNSを見て応援したいって方もいらっしゃいます。スタッフはみんなオーガニックにこだわっているんですけど、一人は、お手伝いしたいっていう気持ちで入っておられた方もいます」

ただ野菜販売だけでは単価が低いことから、加工販売も手掛ける。

「お弁当もやっている。作るのは私です。予約制で800円。30個や50個。いろんな旬の野菜で作っています。ピンク色のポテトサラダとか、農家ならではの旬の時期の野菜が入る。白ばっかりになることあります(笑)。今後はレトルト食品工場を建設して10月に完成予定です。一次産業で野菜を売っているだけだと利益はあまり得られないので加工品に力を入れてスタッフの福利厚生の充実とか、障害者雇用を促進していきたいと思っています」

美味しい野菜に共感した女性たちが作業に参加

今後の進展が楽しみだ。さて、参加さているメンバーは、どんな方たちなのだろう。

森田美和子さん(左)、松島恵里さん(右)

「松島恵里。ちょうど2年になります。今日は、ずっと一日、出荷場で仕事している。ここだけじゃなくて畑も行きます。毎日やることが違う。同じことをやるっていうのはない。収穫するお野菜も違いますし畑での作業も違いますし面白いです。子供がまだ小さくて、離乳食を食べている時期に、添加物とか農薬のことを知り、食が大事っていうのを気づいた。鈴木かすみさんのビオべジのお野菜を知って、とっても美味しかったんです。安全だけでなくて本当にお野菜の味が濃いし甘い。お野菜ってこんなにも美味しいと思ったことがなくて、それを好きになり、子供も幼稚園に通いだして、自分の時間が取れ始めたので、必要なら力になりたいなと思って来させていただくようになりました」

「森田美和子です。勤続5年目です。ちょうど第一次産業が大切だなっていうふうに思った時に、ここを知った。それではじめボランティアで参加した。農業と食べるものって大切だなと、それで仕事に携わりたいなと思いました。前職は宝飾系のお仕事をしていましたが、今は、毎日自然に囲まれて、季節を感じながら、楽しく仕事をしています」

高木真理子さん

「高木真理子です。勤続は4年。コロナの影響が結構大きい。私の場合は介護職をしていた中で、考え方、価値観が180度変わってしまいました、一次産業、日本の自給率のあまりの低さとか、いろんな情報に触れ、私たち若い世代が一次産業を担わなければ日本が潰れてしまうのではないかという思いから、今のビオベジで働かせて頂いています。 職場のみんなで汗をかきながら、お野菜を育てる事に携われる事に幸せを感じます。 これからもみんなと力を合わせて頑張っていきたいです!!今45歳になります。家族5人。夫は地方公務員。子供は上が高2,真ん中が高一、下が中一です」

素敵な思いのある女性たちに囲まれ、さらに大きく広がろうとしている。

株式会社ビオベジ https://bio-veggy.com/
営業時間 10:30ー15:00
(15時以降予約制。お問い合わせ下さい)
定休日 日曜日、他不定休(最新情報はInstagramをご覧下さい)

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