2014.03.31 Mon
林真理さん(49才)は、シカ肉屋さんです。
シカ肉の料理教室を開き、プロ向けのコンサルタントに、シカ肉の販売。そのお姿からは想像しがたいことですが、シカを捌くこともすれば、ワナ猟だってできます。
わざわざシカ肉まで食べたくない、という方もおられましょうが、それは食わず嫌いというもの。シカ肉は、美味しいです。美味しいシカ肉を食べたことがない、という方。それは、チョイスがいけません。牛肉だって、美味しいものもあれば、美味しくないものもあります。シカ肉も同じです。先日は、シカのチョコレートソースをいただきましたが、大変、美味でした。
シカ肉は、脂肪が少なくてダイエットしたい人にもオススメですし、また、漢方では体が温まる食品に分類されており、冷え性にも良いと言われています。
シカは今、猿に代わって一番の農家の敵。増えすぎたシカが里に出てきて農作物を荒らしたり、山の植物を根こそぎ食べてしまうために山崩れが起こりやすく、また、生物の多様性が低下しているという、森林の生態系への悪影響が問題になっているのです。
この捕獲されたシカを、食材として普及しようと奮闘している女性を、今回はご紹介します。
◆料理を仕事にするまで
真理さんは、子どもの頃から料理が大好きでしたが、料理を仕事とするまでにずいぶん回り道をしました。
その理由は、「単に何かを『作ること』以上のより深いものをもとめてしまう、めんどうくさい性格だから」だそうです。
大学時代に料理教室に通ってみたものの、「料理」=「花嫁修業」的な当時の雰囲気になじめず、逆に「わたしにとって料理とは? 食べることとは?」という問いをもちつづけることになりました。
そんな彼女に、文化人類学は料理への新しい視点をもたらしてくれました。就職した国立民族学博物館で食文化の研究に触れ、『トウガラシの文化誌』を共訳する機会にも恵まれ、世界各地の料理を知り、食文化の奥深さに魅了されていきます。
結婚後、大学院で人類学を学んだり、その後の専業主婦の時期を通して、食の大切さや安全についてさらに認識を深めることになりました。そうしていよいよ、在住する宝塚で健康をテーマとした小さな料理教室をはじめました。
◆シカ肉との出会い
そうしてついに料理を仕事にした真理さんが鹿肉に出会ったのは、約5年前。購読していた日本農業新聞に、「増加するシカによる農作物被害の軽減のため、シカが捕殺されていて、その利活用が望まれている」という記事を見つけたのです。
「料理」に、単に「作ること」以上の何かをもとめていた真理さんに、その記事はぴったりとくるものでした。社会貢献的意味を持つシカ肉料理の普及、これこそやってみたかった事ではないでしょうか。
キジ鍋やイノシシ鍋を囲んだ子ども時代の家族だんらん、祖父母や親の世代は、まだ猟の趣味や習慣が残っていたという文化と風土。そんな中で育ち、また、国内外でジビエ料理を食べ、世界の食文化も学んできた真理さんにとって、野生肉の調理への抵抗はまったくありませんでした。
ご自身が大病をされたこともあり、安全で健康な食事にますます関心を深めた真理さんにとって、シカ肉は健康や美容という観点からもチャレンジングで魅力的な食材です。
そうは言っても、料理教室を維持するだけでも経営的には大変で、一般的でない「シカ肉料理」を料理教室でとりあげることは、経営のハードルをますます上げるようなもの。
それでも、「自分が生み出すもので、社会に何かを問いたい」、オリジナリティーを持ちたいという欲求が、最終的に「シカ肉料理の普及を自分の仕事とする」ことを決意させたのです。
◆壁は厚かった
しかし、予想していたとはいえ、その道は平たんではありませんでした。真理さんはこれまでの苦労をこんな風に語っています。
「天然肉の特性(少量、大きさが不揃い、歩留まりが悪い、猟期や天候に左右されるなど)から、加工、流通にどうしてもコストがかかってしまい、肉の価格を下げることが非常に難しい現状があります。しかし、消費者は単に家畜肉の価格と比較してしまいます。
捕獲された5%以下しか食用として活用されていない、という本州の現状は、<食の無駄をなくそう>という時代の流れや、国際的なスタンダート(多くの国や地域でシカ肉は貴重な食糧源)からもとりわけ逸脱しているかもしれません。
いかに、シカ肉の価値をあげるかを考えて工夫するかは、いちばん面白いところでもあり、苦労しているところでもあります。
これは、シカ肉に悪いイメージが先行していることも大きな影響を与えています。シカの食害により、とくに食材としてシカ肉を送りだす農村地域でシカ肉のイメージが悪く、利活用への意識が低いことも問題です。
シカ肉料理を大消費地である都会でブームにするだけでなく、供給地である地元にも根付かせたい。しかし、地域的、歴史的に職業的偏見もあり、多くの見えない壁を実感することもあります」。
◆じわじわ広がるシカ肉利用
シカの捕獲数の増加を背景に、ようやく最近、真理さんの地道な活動が実を結び、シカ肉利用への関心も高まってきました。
真理さんの仕事も増えています。
2年前から、兵庫県森林動物研究センターや兵庫県立大学の研究者とともに、兵庫県のシカ肉料理の普及促進事業にも加わっています。また、企業や自治体と組んだシカ肉利活用のための料理教室とコンサルタントなど、一般向けの講師業と業界向けのコンサルタント業が忙しくなってきました。
一般消費者向けには、シカ肉の料理教室のほかに、シカ肉を食べる会を毎月1回開催したり、プライベートレストラン、シカ肉の販売、ケータリングを行い、こうして、少しずつですが「シカ肉を食べたい」という人を増やしています。
この2年間、真理さんは次なる展開への仕込みもしてきました。調理師免許とフードコーディネーターの資格を取得し、教室では飲食店営業、総菜製造業、菓子製造業の認可をうけ、また、つい最近、食肉販売業の認可もおりてシカ肉の販売も始められるようになりました。
ようやく、事業は軌道に乗ってきたのです。
◆レシピのご紹介
ところで、あの大きなシカを捌く、というのはどんな経験なのでしょうか。ちょっと私たちの想像を超えてしまうのですが、真理さんはこんな風にコメントしています。
「最初にシカをさばいた時は、『無心』だったように思います。『ただ、命と向きあう』という場面で、『粛々と、淡々と』。無言でしたし、ある意味、言葉や感情すら超えた『神聖な?』(適切な表現かどうかわかりませんが)感覚でした。
あえて言葉にするならば、とくに、野山を走り回るシカの身体は無駄な脂肪がまったくなく、肉=筋肉なので、“美しい”と思ったことでしょうか」。
美しいお肉――みなさま、食べてみたくなりませんか?
「生物多様性を守ること、食文化多様性を創造すること」が大きなテーマですが、「美味しく食べてもらう」「また食べたいと思ってもらう」ことが普及の第一と、美味しいシカ肉料理について考える真理さんの愛deerな日々。おいしく食べるレシピの中から一つご紹介します。 ●シカ肉のご注文は、「私のオススメ」をご覧下さい。
(中塚圭子 記)
・・〈レシピ〉炊飯器でつくる鹿肉のワインコンフィ・・・・・
☆コンフィの作り方(作りやすい量)
材料
鹿肉(内モモのシンタマ) 約400g
―下味用の調味料
塩(肉の重量の2%)、コショウ、ニンニク(すりおろし) 1~2片
―加熱用のワイン液
赤ワイン400㏄、水(好みの量)200~400㏄、コショウとジュニパーベリー 各6粒、 ローリエ1枚
―ハーブ・オイル(1週間以上浸けこみ)
オリーブオイル1カップ、タイム(またはローズマリー)2~3枝、塩 ひとつまみ
作り方
① 鹿肉に、フォークでざっと穴をあける。塩・コショウ、ニンニクの擦りおろしを擦り込
む。2時間ぐらいおく。
②鹿肉から余分な水分がでていたらキッチンペーパーでとり、炊飯器の内釜に入れて赤ワイ ン、水、コショウ、ジュニパーベリー(あれば)、ローリエをいれる。ワイン液が鹿肉の 1~2㎝上まで浸かっているようにする。
③ふたをして「保温」ボタンを押す。
④炊飯器(電気の場合、約1時間、ガスの場合約2時間で)の水温が70℃近くになる。
あれば芯温計を刺して内部が68℃以上になっているのを確認する。肉を取り出す。
⑥オリーブオイル、塩、タイム(好みで)の入った袋にいれる。
⑦冷めて肉汁が落ち着いたら、薄く切りわけ、⑥の袋に入れ、なじませる。
ポイント!
※鹿肉は、調理1時間前には冷蔵庫から取り出し、室温にしておく。
※赤ワインも室温のものを使用する。
※煮汁は、鹿肉のアクがでているので捨てるほうがよい。
薄切りにしてねぎポン酢、煮つめたバルサミコ酢とパルミジャーノの薄切りをのせて、またはサラダにのせていただく。
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*本文およびレシピに使用した写真は、株式会社シーズクリエイトの赤司 研介氏にご提供いただきました。
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