
今回は、私の住む東京杉並区に初めての女性区長が誕生したうれしいご報告です。ご当地版をお許しください。
ヨーロッパに20年間住んでいて、4月に帰国した40代の女性岸本さんが、4期を目指す現職を
岸本聡子 76743票
田中 良 76556票
と、なんと187票の差で破って当選しました。
結果だけ見ると何ともドラマティックですが、その誕生までの道筋は、実にオーソドックスで堅実な営為の積み重ねでした。直接かかわってきた人たちの声をひろい合わせて綴ってみます。
杉並区は、戦後まもなくは新居格という当時きっての評論家が区長になったり、ビキニの水爆実験で第五福竜丸の乗組員が被ばくしたとき、真っ先に原水爆禁止運動を始めたり、革新的な区とされてきました。ところが、15年ほど前には、中学校の歴史教科書で「新しい歴史教科書を作る会」の編集した教科書を採用しようという区長が出たこともありますし、現職は昨年の緊急事態宣言が発令されている最中に、区の仕事を請け負っている業者と群馬県にゴルフに出かけていたり、児童館や老人会館の統廃合の提案や、高円寺や阿佐ヶ谷の駅前の再開発案を出すなど箱もの区政が目につくようになって、杉並らしさが失われてきていることを痛感していました。
岸本さんは、今世紀初めからヨーロッパに住み、公共政策を専門としてオランダのNGO 「トランスナショナル研究所」の研究員として働き、着実に実績を上げている人でした。欧州で1980年代以降に広がった水道事業民営化の問題を著書にまとめるなど、知る人ぞ知るの実力派でした。最近になって、共通のNGOのメンバーから、そろそろ日本に軸足を移したいと考えているようだという岸本さんの意向が伝わってきていました。
今年の初め、今年は区長選があるが、区政を刷新しなければいけないと考え始めていた人たちがいました。今年の区長選はどう戦うか、現職は4期目を目指している、その支持基盤は固い、何を争点にして誰を立てて闘うか、と協議し準備を始めた人たちです。
岸本さんが帰ってきそうだということで、岸本さんにはどういう区政が期待できるかと、いくつかの団体やグループが集まって相談しました。岸本さん擁立を決めたのは3月下旬でした。児童館がつぶされては困るという若い親たちのグループや、阿佐ヶ谷・高円寺の駅前の再開発より今住んでいる人の暮らしを守るべきというグループ、杉並の子どもたちの教育を考えて勉強を続けているグループなど、ひごろ地元で地道に活動や勉強会を続けているいくつかのグループが集まりました。そして、「住民思いの区長を作る会」を発足させました。
岸本さんが立候補の意思を固めてからは、選挙運動の進め方を共有しなければなりません。駅前に立って手を振って挨拶をする、時間が来たら台の上に立って演説をする、通行人にビラを配る、選挙事務所では、有権者の名簿を分担して投票お願いの電話かけをする、知り合いの人にはがきを書く…、こうした運動ひとつひとつが、長年ヨーロッパにいた人にとっては、カルチャーショックそのものです。あまりに岸本さんが日本流の選挙を知らないことを知って、支援者グループもまたカルチャーショックを受けました。
電話かけをしても、初めはあまり手ごたえがよくありませんでした。「現在の区長に投票する」「女性には政治は無理」などと言われます。それが、だんだんいい反応が来るようになって、「岸本さん頑張って」と激励を受けるように潮目が変わってきました。街頭でビラを配ると、受け取ってくれる人はいいですが、受け取りを拒否すする人もいつもいます。そういう中で手当たり次第にビラを配り、ポストにいれて歩きます。中には「47歳の女に何ができる、政治は男がやるもんだ」という男性からの嫌がらせ、「女には無理よ、現実は厳しいから。現実を見なさい、上に立つのは男、女は支えればいいのよ」と知ったかぶりを押しつける女性もいる。こうした明らかな女性蔑視のことばをかけてくる人にもめげずに、運動を進めました。
候補者はひとりしかいませんが、候補者が街頭宣伝に車で出て動いているときは、どの駅頭にもかならず誰かが立って演説をするようにしました。支持者一人一人が自分ごととして、その思いを駅前で訴えるのです。「ひとり街宣」です。こういうアイディアもだれからということなく出てきて実行されました。候補者がいない街宣でも、立ちどまって聞いてくれる人が多くなりました。
投票の3日前に、急遽ビラを3万枚印刷して、それを全部配り終えました。そのころから、勝てそうだという感触がつかめるようになりました。はじめはお金もなくて、運動が続けられるかと心配だったのですが、後半から積極的にカンパしてくれる人が増えてきました。結局、今回かかった600万円以上もの選挙費用は全部寄付で賄いました。応援のボランティアも増えてきました。20代から80代までの人が選挙事務所に詰めかけてくれ、若い人も若い人なりに頑張ってくれました。
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促成の選挙対策本部でしたが、それぞれのグループの日ごろの積み重ねがあったからこそ、短期間にものすごい集中的な運動が広げられたと思います。自発的に集まってきた賛同者たち、約350人が何らかの運動にかかわりました。
こうして、初めて住民約55万人の区に女性区長が誕生しました。55万人と言えば小さい国の一つの大きさです。権限も大きいです。影響力も大きいです。だからこれは本当に画期的な出来事です。これで杉並区民は自分たちの選んだ公共政策専門家である新しい区長のリードのもと、区政が今までよりずっとずっと近くなったと実感しながら日々暮らしていくことになります。
ただ、非常に僅差での勝利ですから、反対する人々もたくさんいます。区議の半数以上は反対派です。足を引っ張り邪魔をしようとする古い頭の幹部もいるでしょう。でも、せっかく選んだ区長です。区民にも新区長を支え育てていく責任があります。私もそのひとりとして、なんでもできることはやります!と新区長のブレーンに早速伝えておきました。
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