エッセイ

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<女たちの韓流・21>「お隣さんは元ダンナ」(이웃집 웬수)   山下英愛

2011.10.05 Wed

2010年に放映された「お隣さんは元ダンナ」(SBS週末連続、全65話)は、離婚した夫婦が直面する様々な出来事や心模様を、軽快なタッチで描いたドラマである。韓国ドラマで離婚が描かれる時は、“不倫”や“復讐”とセットで扱われることが多いが、ここには一切登場しない。むしろ離婚をめぐる状況のリアリティを重視しているのが、このドラマの特徴である。

脚本を書いた作家の崔賢瓊(チェ・ヒョンギョン)は、「離婚した人たちは、離婚についてあまり語りたがらず、そのせいで離婚による痛みも克服できない。しかも、それで最も傷つくのは子供たちだ。ならば、一度しっかり取り上げて治癒し、それを通して理想的な離婚男女の姿を示したい」(SEGYE.com,2010.7.22)と、このドラマの執筆動機を語っている。その背景には、2000年代に入って韓国社会の離婚が急激に増えてきたという現実がある。2003年のピーク時よりは減少したが、今日でも離婚率の高さはOECD国家の中で1,2位を争う。政府は離婚の増加を抑えるために、2006年に「離婚熟慮制度」を導入し、離婚手続きを複雑にした(本格的な導入は2008年から)。

そんな中で放映されたこのドラマは、2010年のSBS演技大賞でヒューマンドラマ賞を受賞した他、主人公を演じたユ・ホジョンとソン・ヒョンジュが連続ドラマ部門の最優秀演技賞に輝いた。また、準主役のシン・ソンロクは助演賞を、主人公の妹役を演じたハン・チェアはニュースター賞をそれぞれ受賞している。登場する俳優たちたちは、演技力に定評のある中堅やベテランが多く、ストーリにも無理がないので、安心して見ていられる。視聴率20%台を終始維持した人気作とあって、すでに台湾、日本(衛星放送)で放映され、DVDもじきに販売される。

“離婚後”を描く

主人公の専業主婦ユン・ジヨン(俳優:ユ・ホジョン)と会社員のキム・ソンジェ(ソン・ヒョンジュ)は、夫婦喧嘩をしていた隙に、幼い息子を交通事故で亡くしてしまう。ジヨンはそのショックからソンジェと離婚し、娘を引き取って二人で暮らし始める。実家に頼らず自立しようと、レストランの厨房でアルバイトとして働き始めたジヨンは、そこで、オーナー兼シェフのチャン・ゴニ(シン・ソンロク)と出会う。彼にフードスタイリストとしての才能を認められ、徐々にその方面での道を切り拓いてゆく。また、若いゴニから慕われ、心が揺れる。一方のソンジェは、仕事で知り合ったデザイナーのカン・ミジン(キム・ソンリョン)と親しくなり、再婚を視野に入れて付き合うようになる。

元夫婦だった二人は、こうしてそれぞれの道を歩むが、まだ幼い娘ウンソの親であることに変わりはなく、きれいさっぱりと縁を切るわけにはいかない。ドラマでは、ジヨンら母娘が間借りしている家の隣に、たまたまソンジェの叔父が引っ越して、そこへウンソの良き父親であろうとするソンジェが住み込む。初めのうちは、互いに目さえ合えばケンカばかりしていた二人だが、ジヨンがレストランの仕事で帰りが遅い時は、ソンジェや叔父がウンソをあずかって面倒を見るなど助け合う。また、相手の新しい恋人の出現にはお互いに無関心を装いつつも、気になってつい口出ししたりする。そんな会話の端々に、離婚した男女の複雑な感情が滲み出ている。

ソンジェの恋人であるシングルマザーのミジンは、夫と死別したため、離婚の経験がなく、ソンジェが娘の面倒を見るために元妻の隣家に引っ越すという行動が理解できない。また、何かにつけて元妻と頻繁に連絡をとり合うソンジェを見ながら、すっきりしないものを感じる。だが、教養があり、裕福な実家の後ろ盾で不自由な生活をしたことのないミジンは、仕事にも自分自身にも堂々としていて、悪びれず率直にソンジェやジヨンに向かって自分の疑問を投げかけ、意志疎通を図る。そして、しまいにはジヨンとも良い関係を作ってゆく。崔作家はあるインタビューで、「ミジンは自分の理想形である」と語っている。

一方、幼い娘を抱えて、自立への道を歩き始めたジヨンも、苦労する中でいろんなことを学び、成長してゆく。結婚していた頃は、性格のきつい姑に対して何も言えない従順な嫁だったが、離婚後は次第に自己主張もできるようになる。また、目の前にいる自分が娘であることもわからなくなってしまった認知症の実母と再会し、父親と継母に抱き続けた心のわだかまりを取り払う。大きな病院のオーナーの息子でもあるゴニとのロマンスは、取ってつけたファンタジーのようでもあるが、ジヨンの成長の糧として適度に描かれている。

呼称と関係性

このジヨンとゴニの関係を見ていて私が唯一不満だったことは、ゴニが最初から最後まで5歳年上のジヨンを“アジュンマ”と呼んでいたことである。アジュンマとは、“アジュモニ”(おばさん)のくだけた形で、日本語にすれば“おばちゃん”に近い。韓国では、概ね結婚した子持ちの女性を指す。その対語は“アジョシ”(おじさん)で、青年の域は脱したと思われる男性を指すときに使われる。だが、“アジュンマ”という表現には、「ただ家で食事の支度をして子供の面倒を見る教養のない女」というような、中年の女性を見下すニュアンスが込められており、女性からすれば気分の良い呼称ではない。

ジヨンは、レストランのシェフであるゴニの補助をするアルバイトとして働くのだが、そこで、ゴニはジヨンを“アジュンマ”と呼び、ジヨンはゴニを“厨房長さま”と呼ぶ。ゴニが“アジュンマ”と呼ぶのは、あまり褒められたことではないが、不自然なことでもない。だが、二人が次第に親しくなって、仕事を兼ねてデートをするようになってもこの呼称は変わらない。ドラマの終盤で、二人が真剣に愛を語ることもあるのだが、その姿とこの呼称が、なぜか不釣り合いに感じられた。もし、二人が本当に親密な関係になれば、互いの呼称を整理して改めるのが韓国の呼称文化の慣わしともいえるからだ。逆に言えば、ゴニとジヨンの関係は、この呼称が既定し合う関係以上のものではない、ということなのかもしれない。

二人の言葉づかいも、注意して聞いてみると実に興味深い。普段、二人は互いに丁寧な言葉づかいで話をしている。ところが、ジヨンがゴニに対してタメ口になる時がたまにある。それは、求愛するゴニをなだめたり、説教したりする時である。タメ口になるジヨンは、突然ゴニに対する呼称を“お前”(너)に変えて、自分が年上で、お前は人生の後輩なのだ、という上下関係を言葉づかいではっきり示すのである。ジヨンがタメ口になっても、ゴニの言葉づかいは変わらない。この韓国の言葉づかいとそれが既定する人間関係はバリエーションがあって奥が深いのだが、残念ながら、字幕には全く反映されないのが一般的である。

参考のために付言すれば、主人公のソンジェ(35歳)とミジン(38歳)、叔父ウジン(54歳)とヨンシル(49歳)のカップルは互いに名前の後ろに“氏”を付けて呼んでいる。韓国では恐らくこれが、結婚前の最も品のある呼び方であろう。だが結婚すると、夫が妻の名前を呼び捨てにして、妻は夫の名前に“氏”をつけて呼ぶケースが多くなる(夫が年上の場合)。また、子供が生まれると、子供の名前の後ろに“~オンマ”(ママ)“~アッパ”(パパ)を付けて呼び合うようになる。“ヨボ”(呼びかける時の“あなた”)“タンシン”(二人称の“あなた”)という呼び方は、年配になってから使う人が多い。40代の友人夫婦は「そんな呼び方はまだ気恥ずかしい」と言っていた。ちなみに私の場合は、日本人のパートナーとソウルで知り合ったので、名前の後ろに“氏”をつけて呼び合っている。

崔賢瓊ドラマの人気

ところで、韓国の視聴率リサーチ会社の分析によれば、2000年から2010までに放映された674編のドラマの内、視聴率20%以上を記録したのは139編で、これらのドラマを執筆した作家は104人に上る。だが、その内、3編以上のドラマが含まれている作家は11人に過ぎない。しかも、この11人がその三分の一にあたる43編を書いたという。その中で最も多く書いた作家が、このドラマの崔賢瓊(「空くらい、地くらい」「百万本のバラ」「悲しみよ、さようなら」など6作品)である。その次がムン・ヨンナム(「バラ色の人生」「噂のチル姫」「あやしい三兄弟」ほか)と金秀賢(「母さんに角が生えた」「拝啓、ご両親さま」「私の男の女」ほか)で、それぞれ5作品書いている。この間、崔賢瓊作家は有名人気作家の中でも地味で、あまり脚光を浴びてこなかったが、今後ますます注目されるだろう。

ちなみに、この秋の<じんけんSCHOLA>で開催する「韓国ドラマとジェンダー」(10~11月)では、ちょうど崔賢瓊ドラマを取り上げて、その人気の秘密を探る予定である。

写真出典

http://media.daum.net/breakingnews/view.html?cateid=100030&newsid=20100404112104610&p=segye

http://blog.naver.com/PostView.nhn?blogId=styletv365&logNo=150095766959

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カテゴリー:女たちの韓流

タグ:ドラマ / 韓流 / 山下英愛