2012.10.18 Thu
大阪箕面市のアマチュア・シニア劇団「すずしろ」が市民講座から生まれたのが2004年。最低年齢60歳、最高年齢84歳のメンバーたちがアメリカのブロードウェイで公演しようと思い立ったのは、本公演の演出家である倉田(この人だけは若い、富良野塾の卒業生)の「どうせやるのなら世界のブロードウェイへ」という煽りにのったため、そして彼女・彼らが「ときめくものがほしかった」から。
ブロードウェイといったら、私だって知っている演劇人にとっての憧れの地である。その地で、「進駐軍のジープの後を追ってチュウインガムをもらった」「進学組と就職組に分かれて英語なんて教わらなかった」という世代の人々が英語劇をしようというのだから無謀無茶と言うか、大胆にも程がある。記憶力はガタ落ち、健康の不安もある、経済的な問題もある……。仲間同士で細かいシンドイ議論を粘り強くするうちに、メンバーの心はブロードウェイという夢にむかって走り始める。「すずしろ」の主宰者である秋田啓子は、みんなが生きて元気にこの夢を果たせるのか心配だったとインタビュアに答えている。そんな根源的な不安を抱えながら、元翻訳者だったメンバーと元英語教師のボランティアの特訓を受けて舞台を完成していくまでの2年間のドキュメントである。
アメリカでの高齢者の支援団体と交流もしながら、いよいよ本番。当日の会場は満員の観客。駐米中の日本人も応援に駆けつけたが、若い人も多かったのが印象的。演目は十八番の「煙が目にしみる」。
斎場でお骨になるのを待っている間の家族のやりとりと、他の人には見えないが喪主である妻だけには見える亡き夫とその友人との交流。亡くなった夫が妻にせかされるようにして「アイラブユー」と告白すると会場は爆笑。日本語と英語がミックスされていたが、会場の英文字幕にも笑い声が起きていた。短いシーンの中にもユーモアがあってわかりやすい劇のように思われる。
公演に成功してニューヨークの街を躍るように歩くメンバーたちの誇りと喜びにはじけた顔。ハードルが高かっただけにそれを達成したときの嬉しさは格別のもの。彼女・彼らの足取りは自信に満ちていた。いくつになっても「なせばなるなさねばならぬなにごとも」であることを実感させてくれる笑顔笑顔だった。
もちろん、全員そろってブロードウェイに行けたわけではない。途中で稽古をやめて去った人々もいる。彼女たちはその後「すずしろ」に復帰しただろうか。beforeとafterでなにか変わっただろうか。多分「たとえ明日地球が終わろうとも,僕は今日リンゴの木を植える」ということばが大好きだという秋田啓子の明るい積極性が再びメンバーを吸引していくことだろう。
最後に彼女・彼らの青春時代の写真が一人一人紹介されている。みんなどこかしら今に面影を残す。切なくて涙が出そう。
配給 パンドラ/本作品はDVD化未定
自主上映問合せ・お申込み先:イメージ・サテライト102-0074千代田区九段南4-6-1-904
Tel 03-3511-7030 Fax 03-3511-7031 E-mail imagesatellite@hotmail.com
〈監督:倉田操・日本・2011年〉
カテゴリー:新作映画評・エッセイ
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