こども 教育 文学 エッセイ 評論 ひこ・田中の、 子どもの本イチオシ
星の王子さま ポップアップ絵本・完全翻訳版
2011.06.07 Tue
星の王子さま ポップアップ絵本・完全翻訳版
訳者など:アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ ()
出版社:岩崎書店
内藤ではなく池澤訳を使った、仕掛け絵本です。 テグジュペリの絵そのものが動きのあるものなので、というか動きの一瞬をとらえた絵が多いので、ポップアップしやすいですね。 『星の王子さま』は、サンテグジュペリの意図は別として、大人の癒し本として、子どもの本を偽装して流通しています(詳しくは拙著『大人のための児童文学講座』(徳間書店)を参照ください)。 この王子さまが「子ども心」の理想型というのは、悪い冗談に違いありません(この王子は疲れた大人ですから)。本気にされると子どもがいい迷惑でしょう。 本人はゾウを飲み込んだウワバミを描いたつもりでも、誰が見ても帽子にしか見えない絵を持ってきた子どもには、「帽子の絵にしか見えないよ」と言ってあげるのが親切です。それで、子どもの側が「大人って想像力がないな」と嘆くのは、それはそれでかまいません。ただ、それだけのことです。 そこに何か意味らしき物をほのめかすことで、テグジュペリがなにをしたかったかはわかりませんが、『南方郵便機』や『夜間飛行』や『人間の土地』のような、実体験に根ざした鋭い思索作品を描いていた彼も、世界大戦を目の当たりにしていささか疲弊したというところでしょうか。 この仕掛け絵本は、大人読者にとって、イメージだけが先行しているテクジュペリの挿絵を、おもちゃ箱のように徹底的に子ども向けにして、ごちゃごちゃと遊んでいるという点で、「子どもの本を偽装して」いる作品を逆手にとっていておもしろいです。 大人の『星の王子さま』ファンは怒るかもしれませんけど、遊んじゃえ!
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