2011.06.17 Fri

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ぶたにく

訳者など:大西 暢夫 ()

出版社:幻冬舎

 表紙に柵から顔を覗かせる可愛い黒豚の子ども。裏表紙にはたくさんのソーセージ。そしてタイトルが「ぶたにく」。作者は『おばあちゃんは木になった』の大西。  とくれば、期待は膨らみます。  今作でも大西は冷静に距離を置いて母豚の出産から始めます。四年間で八〇頭を産むこと、妊娠から出産までの日数。やろうと思えば簡単に「命の尊さ」に「感動」させられるであろう写真に、そうした数字が淡々と添えられていきます。この距離感は、ノンフィクションとしての写真の距離感や、ジャーナリストとしての対象物との距離感といったものではありません。いったん熱く寄り添ってから、ゆっくりと撮れる距離まで離れたといったものです。ですからそれは客観的だとか、主観的だとかとは別の、関係性が生み出す距離感です。そうすることで大西は、読者にも彼の隣に座る場所を空けておきます。 こうした大西の距離は『おばあちゃんは木になった』での格闘から生まれたものですが、そのたたずまいは、物語との距離をつかめない現代の読者にとって、大切なことを教えてくれているようにおもいます。  生まれてから十ヶ月。一〇〇倍の体重、一二〇キロになった子ブタは出荷されます。百二十キロの内、売れる肉となるのは七〇キロであることも大西は記述します。一つの生命百二十キロで売れるのが七十キロ。  種豚としてだけ生きている雄豚。そして、捌かれた肉。加工されたソーセージ。  どれもが同じ距離で語られ、同じ距離で撮影されます。  そこにあるのは、「真実」といったとりとめのない「感動」の生成物ではなく、「事実」という、密度の濃い何かです。

カテゴリー:人権 法律 政治 / くらし 衣食住 / こども 教育 / ノンフィクション 歴史 / しごと 労働 生き方 / 環境 グローバル / ひこ・田中の、 子どもの本イチオシ

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