住まいを失い、新たな住まいで生活を立て直すとはどのような経験だろうか?
筆者はそれを個人がどのように経験しているかを明らかにするためにDVを受けた後に母子世帯向けシェアハウスに転居したシングルマザーと、「ハウジングファースト」という手法によりアパート生活を始めた単身男性のホームレス経験者にフォーカスした。
母子世帯向けシェアハウスとは、シェア住居の一種でありシングルマザーをターゲットとした住まいである。集住によるスケールメリットにより家事や育児サービスを安く提供し、仕事・家事・育児に忙しいシングルマザーの負担を軽減することで母子のウェルビーイング向上を目指している。
「ハウジングファースト」とは、ホームレス状態になった人たちに対する支援方式の一つであり、まず住まいを確保してから本人が望むケアを提供する手法である。欧米諸国においてホームレス支援の手法として普及しており、日本では「ハウジングファースト東京プロジェクト」によって実践されている。日本での実践では、生活保護を利用して住まいを確保し、さらに生活保護によって生活を立て直す方法が主流となっている。
筆者は、母子世帯向けシェアハウスに住み込み、ハウジングファースト東京プロジェクトへの参与観察(ボランティアスタッフとして支援活動に従事)を行った。
本書ではこうしたフィールドワークの結果を元に、既存の公的制度の問題点を浮かび上がらせている。ぜひ本書を通じて住まいとケアによって包摂される人たちの多様な生のあり方を知っていただきたい。(すぎの・きぬよ)

◆書誌データ
書名 :住居住支援の現場から 母子世帯向けシェアハウスとハウジングファースト
著者 :杉野衣代
頁数 :220頁
刊行日:2022/1/30
出版社:晃洋書房
定価 :5390円(税込)

居住支援の現場から――母子世帯向けシェアハウスとハウジングファースト

著者:杉野 衣代

晃洋書房( 2022/01/30 )