今年で59冊目 特集「いま、子どもの声を〈きく〉」

 子ども白書は、1964年の創刊以来、今年度版で59冊目を迎えた民間発のホワイトペーパーです。これだけ長く続いているホワイトペーパーは世界中見渡してもなかなかお見かけしません。最新のトピック分析や実践紹介、各種データ、年表資料、子ども・若者たち自身の声などが集約されています。
 編集母体の日本子どもを守る会は、1952年5月に誕生した団体です。1951年5月5日に「児童は人として尊ばれる」とした児童憲章が制定された翌年のことです。当時は朝鮮戦争の最中。日本の子どもたちの生活・教育・文化・福祉のあり方に強い疑問が集まっていた時でした。この現実を黙視できないと、親や教師など広範な人々が結集し、子どもの人権と平和を守る運動を進めました。この団体が、児童憲章や子どもの権利条約の精神に基づき、子どもたちが安心して暮らし、豊かに育ち合っていける社会の実現をめざして刊行を続けてきたのが本書です。
今号の特集テーマは、「いま、子どもの声を〈きく〉」です。深刻化する少子化やコロナ禍で加速した子育ての困難の解決を目指し、この度、「こども家庭庁」が設置され、「こども基本法」が施行されました。「子どもの権利」の保障が明記され、「子どもをまんなかに」というコンセプトのもと、子どもや子育てしている人の声を聴きながら当事者目線に立った政策を進めていくことが目指されるなど、期待は大きい半面、これまでの子ども政策の民営化や規制緩和の動きをふまえると、直ちに方向転換するものであるのかどうか疑問も多いでしょう。
そこでわれわれは、「子どもの声をきく」という、本書がこれまでも大切にし続けてきたこの根本理念を、今改めて問い直す特集を組むことにしました。「声をきく(聴く、聞く)とは」、「きく手法とは」、「おとなの構えとは」、「子どもの生の声から学ぶ」、「これまでの歴史的実践や外国事例に学ぶ」など、このような切り口を、多くの論者とともに考え、子ども・若者に関わる実践現場や施策づくりに関わる方々や保護者や学生のみなさまに役立つよう編集いたしました。
 また、「子ども最前線」のコーナーでは、「部活動の地域移行」、「宗教2世の子どもたち」、「広がる学校給食無償化」などの直近の子どもに関連する重要問題を鋭く分析しています。さらに「子どもをめぐるこの1年」コーナーでは、10の専門領域(いのちと健康、家庭、福祉、保育・学童保育、司法、学校、地域社会・まち、文化、メディア、ジェンダー・セクシュアリティ)でご活躍の現場関係者、研究者を中心に総勢50名を超える方々に幅広い視点での論考を掲載しています。
ぜひとも手に取っていただき、率直なご意見やご批判もお寄せください。

もくじ(一部)
【特集】
・硬直した社会規範がもたらす閉塞感を打ち破るために/森本 扶
・子どもの声をきく しあわせの方へ/岩川直樹
・子どもの心の部屋に入れてもらうこと/苅谷夏子
・「子どもの意見表明権」を生かす場を地域につくる/西郷南海子
・子どもたちの声が学校を変える/鈴木はつみ
・デジタルツールによる「声」の獲得/菊田有祐
・教育の本質を考え直してみてほしい 布ナプキンプロジェクトから/平野真衣
・コラム 子どもとおとなでつくる未来/山藤旅聞
・今の私たちの行動が、将来生きる世界を決める/福代美乃里
・核兵器と戦争のない世界を/鳥海太佑
・子どもの権利保障はすすむのか/中嶋哲彦
・子どもの声を聴く法的根拠/佐藤香代
・乳幼児の声を社会に伝えよう/平松知子
・誰もがユースワークに参加できる社会 欧州の経験から/平塚眞樹
・フランスの「子どもの意思を尊重する方法」/安發明子
・“からだ”のデータから子どもの「声」をきく/野井真吾

【子ども最前線】
・部活動の地域移行と「こども基本法」/神谷拓
・宗教2世の子どもたち/掛川亜季
・宗教が支える家族国家観の復権/堀江有里
・インクルーシブ教育をめぐる動向/荒川智
・コロナ禍で急速に拡がる学校給食無償化/岡﨑利夫

◆書誌データ
書名 :『子ども白書2023』
編者 :日本子どもを守る会
頁数 :192頁
刊行日:2023/7/19
出版社:かもがわ出版
定価 :3080円(税込)

子ども白書2023

著者:日本子どもを守る会

かもがわ出版( 2023/07/19 )