階級やセクシュアリティ、メリトクラシー、グローバリズム──「男性性はどのようにつくりあげられるのか」をめぐる必読文献を集成した本邦初の男性学/男性性研究の基本論文集。
男たちが「男らしさ」にとらわれているから、性別秩序は変わらないのだ――そうした見方では性の不平等がつくられるメカニズムは解明できない。
英語圏のジェンダー研究に大きなインパクトを与えた男性性研究の核心は、「男とはどのようなものか」という理解の多様性・複数性に着目しつつ、それらが恣意的かつ非一貫的に動員されるからこそ、不平等なジェンダー関係が再生産されることを解き明かす、という点にありました。
しかし日本では、男性性の多様性・複数性が「男性間の序列に光を当てるもの」としてのみ理解/誤解され、男性の被抑圧性・被害者性を強調する論拠とさえなってしまっている面もあります。
男性の構造的優位を指摘することが「無理解」で「一面的な見方」のようにすら扱われてしまう国内的状況に対し、性支配の構造を変革するための男性側への/からのアプローチとして執筆された男性性研究の主要な論文を編んだ論文集です。
ガラパゴス化した日本の「男性学」が世界の研究潮流にキャッチアップ・接続するにあたり必読の海外論文を集成。男性性研究を「優位な側が優位性をしたたかに確保していくメカニズムを問うもの」として再建するために。
【目次】
巻頭言 男性性役割の社会化から、男性性による不平等の正当化へ[平山亮]
Ⅰ ミクロな社会分析としての男性性
解説 「男をつくりあげる実践」から、性の不平等を腑分けする[平山亮]
1 男性、男性性、そして援助要請の文脈[マイケル・E・アディス、ジェイムズ・R・マハリク/本山央子 訳 平山亮 監訳]
2 ハイブリッドな男性性――男たちと複数の男性性に関する社会学の新しい方向性[トリスタン・ブリッジス、C・J・パスコー/下地ローレンス吉孝 訳 平山亮 監訳]
3 ヤワなペニスを硬くして――高齢男性の生活に見られる年齢・階級・ジェンダーという社会関係[トニ・カラサンティ、ニール・キング/平山亮 訳]
Ⅱ マクロな社会分析としての男性性
解説 マクロな社会分析としての男性性[海妻径子]
4 新自由主義的メリトクラシーにおける白人労働者階級の少年たち――「アスピレーション向上」アジェンダの落とし穴[サム・バーズ/濱田すみれ 訳 本山央子 監訳]
5 グローバルな文脈における男性の実践とジェンダー関係を研究する[ボブ・ピーズ、キース・プリングル/比嘉麻理 訳 本山央子 監訳]
6 「ヘゲモニックな男性性」から「男性のヘゲモニー」へ[ジェフ・ハーン/海妻径子 訳 本山央子 監訳]
Ⅲ 軍隊・戦争研究のなかの男性性
解説 軍隊・戦争研究のなかの男性性[佐藤文香]
7 防衛専門家たちの合理的な世界におけるセックスと死[キャロル・コーン/本山央子 訳 佐藤文香 監訳]
8 ヴェールに隠された参照項――九・一一後アフガニスタン攻撃に関するブッシュ政権の言説におけるジェンダー構築[ローラ・J・シェパード/本山央子 訳 佐藤文香 監訳]
9 国際関係における軍事化された男性性[マヤ・アイクラー/本山央子 訳 佐藤文香 監訳]
Ⅳ 歴史学のなかの男性性
解説 歴史学のなかの男性性[兼子歩]
10 男性性、身体化された男性労働者、そして歴史学者のまなざし[エヴァ・バロン/竹田安裕子 訳 兼子歩 監訳]
11 キリスト教的兄弟愛、あるいは変態性欲?――第一次世界大戦期の同性愛アイデンティティと性的境界の構築[ジョージ・チョーンシー・ジュニア/髙内悠貴 訳 兼子歩 監訳]
12 ジェンダーと帝国主義――一九世紀末ベンガルにおける植民地政策と道徳的帝国主義のイデオロギー[ムリナリニ・シンハ/鹿野美枝 訳 兼子歩 監訳]
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◆書誌データ
書名 :男性学基本論文集
編者 :平山亮・佐藤文香・兼子歩
頁数 :368頁
刊行日:2024/2/1
出版社:勁草書房
定価 :3960円(税込)