1月24日の石破首相の初めての施政方針演説をしっかりと読ませていただきました。そして、たくさん使われている「女性」ということばに、違和感と失望を感じているところです。
8項目に分けられた演説の第2番目の項目は、地方創生2.0、「令和の日本列島改造」の具体化というもので、その中の2番目の中見出しは【若者や女性にも選ばれる地方】となっています。ここで、首相は、
「第一の柱は「若者や女性にも選ばれる地方」です。若者や女性が「楽しい」と思えるような新しい出会いや気づき、そこから生まれる夢や可能性が重要です。」
と述べています。これ以降「若者や女性」のフレーズがたびたび出てきます。「若者」と「女性」というレベルの違う2つのグループを一対のグループとして並べられているのが気になります。
「若者」といえば、辞書を引くまでもなく、10代から20代ぐらいの、体力も知力も発達途上にあって、まだ人生経験は浅いが、今後伸びて活躍し得る範囲が広くていっぱい可能性を持っている集団と言えましょう。「女性」というと、生まれたばかりの赤ちゃんから百歳を超える高齢者までの、若者も含むすべての女性です。年代別のグループ名である「若者」と、性別のグループ名である「女性」を対にした呼びかけに違和感はぬぐえません。
女性が若者と並列で語られるということは、女性は若者と同じ発展途上の人生経験の浅い存在だということになります。たいへん失礼ではありませんか。
かつて「女子ども」ということばが使われたことがあります。この句の中の「女」は、一人前の男とは違って子ども扱いされる、子ども並みの存在でした。「若者と女性」もそれと同じ扱いではありませんか。
善意に解釈すれば、男性がいろいろ手を尽くして頑張ってきたが、もう手垢にまみれた男性の手では列島の改造はできない、まだ手の汚れていない「若者と女性」こそ期待ができる、だから「若者と女性」さん、どうかよろしくお願いしますよ、ということかもしれません。
たしかに、地位も権力もなかった女性は手垢にまみれることもなかった、そういう意味で若者と同じような未知数の可能性所有者とみられているのかもしれません。それにしても「若者と女性」ひと括りは困ります。
従来の男性社会が行き詰って、列島改造の担い手を求めるのだとしたら、若者や今まで相手にされなかった女性をわざわざ持ち上げる必要もありません。老若男女の区別なく「すべての頭の柔らかい、やる気のあるみなさん」としたらどうですか。古い考えや権力にしがみつく人にかわって、まだ新鮮で可能性のある人すべてに向かって呼びかけたらいいのです。
困った時の神頼みとしての「女性」の利用はやめてください。かつて安倍首相も声を大にして言いました、「女性活躍」「女性が輝く社会」と。でも、本当に女性が輝いて活躍できる社会をつくってくれたでしょうか。輝くどころか、非正規の女性労働者ばかり増やして、男性との賃金格差を広げました。ジェンダーギャップ指数は低迷する一方で、自民党の衆議院議員の女性比率は9.7%で1割にも足りません。本当に女性の活躍を実現しようとしたら、もっと女性議員は増やせたはずですし、官庁の幹部職員も増えたはずです。結局、ことばだけの女性活躍だったと今ハッキリわかります。
演説の最初に戻ります。「選ばれる地方」という考え方も飛躍しています。現在の地方は過疎化が進み、若い人たちは都会に出て行ってもどらない。そういう地方を再生するために「若者や女性」から「選ばれる地方」を目指すというのです。
過疎化が進んで疲弊した地方を再生するために外部から「若者や女性」を呼び込むという発想の前に、本来いた人たち、生活ができるなら故郷にずっといたかったのに、出て行かざるを得なかった人たちのことを考えるのが先ではないでしょうか。その地方では仕事がなく、医療や福祉の環境も悪化し、買い物にも不自由し、生活がなりたたなくなった、万策尽きて都会に出て行かざるを得なかった、そういう人が続出して過疎化が進んでしまったのです。為政者のすべきことは、その過疎化の根本の原因を取り除くこと、そして、本来住んでいた人が住み慣れた地方で「楽しく」暮らし続けられることではないのですか。
もともと住んでいた人が住めなくなった土地が、「選ばれる」土地になり、そこを選んだ人が「楽しく」住めることなどありえますか。いかにも地方創生の新しい発想のようですが、腐った土台の上に新しい家を建てるようなものではありませんか。
石破さんは、また次のように言っています。
「日本各地で事業を起こそうと考えている若者や女性の方々の声を伺い、起業の障害を解決し、ネットワークの構築を支援する等の取り組みを強化します。」
ここの「若者や女性の方々」には目をつむることにして、女性が起業できる環境を整えるというのは大賛成です。その取り組みに大いに期待します。ところが、この演説の数日後の新聞には「女性起業家セクハラ被害深刻」という大きな記事が出ています。(朝日新聞1月28日)
「女性起業家に対する投資家からのセクハラ被害が相次いでいる。女性起業家の半数が被害を受けたという調査結果もあり、性暴力など悪質な事例も少なくない。」
というのです。ここでもセクハラと性暴力です。もううんざりです。日本社会はどうしてこう、いつまでも男社会がはびこっているのでしょう。首相の言う「起業の障害」がまさに目の前で起こっています。その「解決」は喫緊の課題です。たくさん並べた施策のひとつとしてそのうち手をつけますというのでなく、即刻解決に向けて動き出していただかなくてはいけません。
もうひとつ、首相の演説で気になったことばがあります。
「若者や女性が働きやすく魅力ある職場づくりを進めるため、アンコンシャス・バイアス、すなわち無意識の思い込みの解消を図るとともに、男女の賃金格差の是正を促進する法案を提出します。」
「アンコンシャス・バイアス」の解消を図る、これは是非とも今すぐにあらゆる分野で実行していただきたいことです。賃金格差是正の法律も即刻作ってください。女性の会議は長くなる、女性は理系には向いていない、女性はリーダーシップがとれないなどなど、無意識の思い込みはすぐ解消させてください。
最後にもうひとつお願いです。選択的夫婦別姓制度を一刻も早く導入してください。この制度の導入に反対している自民党の人々は、無意識の思い込みではなく、家族の一体感が失われるとか勝手なこじつけをしながら意識的に導入に反対しています。自民党総裁の石破さんには、これら意識的に頑迷に拒否し続けている「コンシャス・バイアス」の人たちの説得を直ちにお願いしたいのです。
2025.02.01 Sat
カテゴリー:連続エッセイ / やはり気になることば
タグ:女性政策 / 政治 / 選択的夫婦別姓 / ジェンダー・バイアス / ことば