WAN最終講義アーカイブに、児島亜紀子さんの最終講義が加わりました。

                      画像:児島亜紀子さん


児島亜紀子(こじま・あきこ)最終講義

標題:「応答と分有 レヴィナス哲学とソーシャルワーク――特に主体概念と正義をめぐって」
日時:2025年3月25日(火) 13:15~15:00
会場:大阪公立大学 中百舌鳥キャンパス A4棟402教室
退職年月日:2025年3月31日
専門分野:社会福祉学(社会福祉原理論、福祉哲学、ソーシャルワーク理論、女性支援論)

プロフィール
1997年東洋大学にて博士(社会福祉学)取得。同年長野大学の講師を経て、1999年大阪府立大学(現:大阪公立大学)に着任。2025年4月より大阪公立大学名誉教授。2000年代初頭より、社会福祉実践における倫理的諸問題に哲学的アプローチから取り組む。特にフーコー、レヴィナス、スピヴァクらの思想を手がかりに、支援における「専門知」の排他的性格をどう捉えるか、あるいはクライエントの「他者性」、「声なき声」などを支援者はどのように受け止めるべきかを模索してきた。近年は、反抑圧的ソーシャルワーク実践(AOP)や交差性理論などを通して、社会福祉がいう「包摂」を批判的に考察している。主な業績として、編著『社会福祉実践における主体性を尊重した対等な関わりは可能か: 利用者―援助者関係を考える』(ミネルヴァ書房、2015年)、サラ・バンクス著、石倉康次・伊藤文人との監訳(2016) 『ソーシャルワークの倫理と価値』(法律文化社、2016年)など。

最終講義では、レヴィナスの哲学を手がかりに、支援における倫理の根底を流れる「応答責任」や「正義」を問い直した。女性支援の現場を例に挙げ、ソーシャルワークにおける他者との関係性や、「顔」の呼びかけの意味を検討した。そこにスピヴァクの「語れない/聴き取られない他者」や、表象不可能性の問題を交錯させることで、支援者はいかに他者の声を代弁/翻訳できるのか、あるいはできないのかといった倫理的ジレンマを浮かび上がらせた。ソーシャルワークを単なる技法論に留めおくのではなく、応答と分有に根ざした倫理的実践として再定位することを試み、フェミニズムの視座とも共鳴する「哲学としての福祉」の輪郭を描き出した。