2013.10.29 Tue
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私も執筆者の一人だが、出版されてはじめて他の著者の文章を読んだ。ほぼ同じ考えの持ち主による共著と言えばそうなのだが、私は、編者である「ポルノ被害と性暴力を考える会」会員ではないため、一度も会ったことのない共著者、一度しか会ったことのない共著者などもいる。一読しておもしろかったのは、私が言おうとしてきちんと表現できていなかったことが、すでに他の著者によってはっきりと表現されていることだ。
イダヒロユキは「主流秩序」(私たちを取りこみ縛っている価値と規範の序列体系)というキーワードを用いて、ジェンダー秩序、性差別秩序が差別や抑圧をもたらしていると見る。イダは、会田誠の作品について「主流秩序の価値観をなぞった平凡な作品にすぎず、そこに深い批判性などない」「会田作品はアイキャッチャー的に若い女性の体を利用しているだけ」と述べる。私が「別にタブーに挑戦しているわけではないのです。ポルノ大国において通有しているポルノ容認の価値観にどっぷり浸かっているだけです」「才能がないからポルノに走る」と述べたことを、理論的に整理してくれたものと言える。イダはまもなく『主流秩序――囚われの正体と責任、そして離脱の方法』という本を出版する予定だという。
梅山美智子は、男性雑誌編集者だった経験をもとに、雑誌がどのような男性目線で作られていくかを明らかにしている。
岡野八代は、女性差別のヘイトクライムを鋭く切開し、尊厳を守るとはどういうことなのかを説く。日本におけるヘイトスピーチ論議では、被害が起きているのに被害とは認めないのが主流である。どんなひどい差別発言でも「被害はない。表現の自由だ」というのが憲法学の決まり文句である。岡野はまず被害の所在を明確にして議論をしている。私は「ジェンダー・ヘイトスピーチ」について考えてきたが、岡野論文に学んで再考したい。
西山千恵子は、性の政治と「芸術」の特権性を取り上げ、公園などに堂々と設置されている女性ヌード彫刻の意味を考え直し、「芸術における女性への暴力」を問う。
森田成也は、近代法における古典的な表現の自由と、そこから発展した現代における表現の自由の歴史的意味と法的意味を整理して、「表現の自由」派が、そもそも表現の自由をまともに理解していないことを厳しく批判する。まさに私が主張してきたことと重なる。
そのほか、討論集会の記録や、関連連資料も収録されている。 (前田朗)
【目 次】
はじめに「森美術館問題の発端と経過」ポルノ被害と性暴力を考える会
第1部 森美術館問題、私はこう考える
イダヒロユキ「性暴力被害者の声に耳を傾けず主流秩序にいなおる森美術館」
梅山美智子「男性雑誌と性表現」
岡野八代「なにに、わたしは危害を感じているのか?――森美術館問題とヘイト・スピーチ」
西山千恵子「『芸術』の驕りと女たちの沈黙」
前田朗「ジェンダー・ヘイトスピーチを考える」
宮口高枝「森美術館・会田誠展への港区での請願経過」
森田成也「在特会デモと会田誠展とのあいだ」
横田千代子「婦人保護施設の現場から訴えたいこと」
第2部 森美術館問題をめぐる討論集会
Ⅰ 第1回討論集会(2013年2月5日)
宮本節子「芸術表現と人間の尊厳」
森田成也「ポルノ表現と性暴力」
前田朗「表現の自由と責任―博物館法における社会的責任」
Ⅱ 第2回討論集会(2013年3月23日)
角田由紀子「ポルノ被害をどう考えるか」
前田朗「<博物館事件>小史」
宮本節子「森美術館との話し合いの顛末」
第3部 資料
№1 森美術館への抗議(ポルノ被害と性暴力を考える会)
№2「会田誠展 天才でごめんなさい」への抗議と「犬」シリーズ展示 撤去の要望(宮本節子)
№3 森美術館への抗議文(金尻カズナ)
№4 森美術館の回答
№5 森美術館の回答について(ポルノ被害と性暴力を考える会」
№6「間誠展 天才でごめんなさい」への抗議と展示中止の申し入れ(石原都知事の女性差別発言を許さず、公人による性差別をなくす会)
№7 港区議会への請願書(宮口高枝 他)
カテゴリー:わたしのイチオシ
タグ:性表現 / 本 / 性暴力、ポルノ、会田誠、PAPS、森美術館問題
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