2015.05.22 Fri
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.初読刑事:高名な大学教授にして内務大臣と親交も深いダニエル・デュポンが、夜七時半、自宅の書斎で凶弾に倒れた。
再読刑事:教授は九人目の被害者。この連日〈被害者たちの政治的意見と犯行の時刻が一致〉する殺人が続いており、内務省はテロ組織の犯行と疑いはじめていた。
初:事件の街にやってきたのは、捜査官ヴァラス。
再:こいつの登場が、かっこいいな。
初:序章の一番最後、本文から一行あけて、〈ヴァラス。〉、改行、〈「特別捜査官」…。〉ここらへんが“ヌーヴォー・ロマン”ですよね? “新しい浪曼”がはじまるかんじでドキドキしました。
再:もっとブンガク的な意味だと思うぞ? それに、いくら時代がかわってもホシを追うのが刑事の夢。この小説はそこは外していない。
初:でも刑事がホシになっちゃいますからね。ヴァラスは運命に翻弄された。
再:いやいや、ヴァラスが犯罪者になったとはいえまい。序章に登場する、〈ダニエル・デュポンを殺そうとして、軽傷しか負わせることができなかった昨夜の不器用な犯人〉ことガリナティが、終盤はヴァラスと同じ地点を目指して行動している。ヴァラスには真犯人逮捕の可能性が残されている。
初:ガリナティに腕を撃たれたが命はとりとめた教授は、テロリスト一味の追撃を恐れ、知合いの医師に頼んで死亡証明書を捏造、警察に提出。撃ち損じたガリナティは、翌夜、とどめをさそうと教授宅に向かい、同じ頃ヴァラスも‥。しかし、ガリナティこそヴァラスであった、という可能性はないでしょうか。ヴァラスの腕時計は衝撃で止まりやすく、昨夜の七時半、犯行刻で止まっている。ヴァラスの視点で語られた部分は、すべて読者への嘘ではないかと疑うのですが―。
再:殺害時刻を重視するテロだ。この犯行に関わる人間なら正確な時計をしているはずだ。
初:なら、ヴァラスはやはり特別捜査官‥。
再:内務省直属の特別捜査官が、バカになる腕時計で動き回るのも疑問だがな。
初:勘が鋭いんです! 初めての街に地図なしで訪れたのに、人づてに要所をおさえていく。
再:地図は〈商店が開いたらすぐに買うつもり〉でいたくせに、早朝、文具店でまず買うのが消しゴムだぞ? 理想の消しゴムを求め、余計な消しゴム二つも購入している。
初:しかし二つ目を買う文具店の女店主が、デュポン教授の別居中の妻です。ヴァラスに消しゴム道楽がなければ、この妻への聞き取りはできなかった。
再:才能はあるが、問題の多い男だ。
初:僕は、この小説では、捜査権限がないにもかかわらず〈個人的な興味から補足的な捜査を続行〉、しかも誇張した内容の報告書を作ってしまう新米刑事こそ問題だと思うんですが‥。
再:いや、この新米は凄腕だ。なにしろ、教授宅の家政婦が二時の列車に間に合うよう家を出たあとから近隣への聞き込みを開始し、教授の私生児について資料もあたり、仕上がった報告書を署長とヴァラスが読むのが当日の六時、五時‥いや四時。わずか二時間でこれだけの作業とは‥。
初:曲芸だ! そんな早業ありえない!
再:まぁな。もしヴァラスが、この新米刑事の報告書を読んだならば、少なくともその夜の七時までに教授宅には向かえまい。
初:じゃあ、教授宅に向かったのは‥
再:この小説は、中盤から時系列が分岐し、その延長にありうる複数の未来が展開し、それぞれの時間軸でのヴァラスはじめ登場人物の状態がかれている―、と考えたほうが辻褄あいそうだ。
初:これ、SFですか! タイムパラドックスか何かの都合で、ヴァラスが犯人ガリナティと重なってしまう可能性なんて、ありますか?
再:というよりむしろ、数字の抜けたゲームブックだろうな。サイコロをふって、「この番号にいけ」、「あの番号にいけ」といった指示がないのだから、自分の好きに読めばいい。
初:ゲームブックの、数字を消したからタイトルが『消しゴム』‥
再:消しゴムを使う、新しい書き方だ。 (杵渕里果)
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