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ネコと暮らす(4):クロちゃん  bora

2009.12.08 Tue

 息子が拾った子猫はチビだけではありませんでした。段ボールのワナを隣の家の庭に仕掛けて子猫を捕まえようとしたら、隣のおじさんが「是非とも連れて行ってくれ」というので、力作(笑)のワナは空振りのまま連れて帰ってきた黒い子猫は、息子の友達の間で大人気を博しました。ちなみにうちでは黒いネコの名前は基本的にみんな「クロ」です。おしりをふってじゃれるクロちゃんを見に連日やってくる少年少女たちは「かわいい笙。」と大騒ぎでした。 こたつのある季節をすぎて、そろそろこたつが要らなくなるころ、クロちゃんは風邪を引き、具合が悪くなりました。何度も医者に行きましたが、ある日クロちゃんのためにまだ出しておいたこたつの中で急に冷たくなってしまったのに、息子の友達が気がつきました。気づいたときにはもうすっかり冷たくなっていて手の打ちようもありませんでした。

 息子は壁の方を向いたまま、口をききません。姉が寄っていって顔を覗き込み、「おまえ泣いてるんか?」と言うと、怒って暴れ始めました。つらい気持ちが手に取るようにわかったので、「悲しいときに泣くのはちっとも恥ずかしいことではないよ」と言うと、単純な息子は部屋の真ん中に出てきて床に突っ伏しておいおい泣きました。それからクロちゃんが遊んだおもちゃと一緒に箱に入れてお通夜をし、翌日庭に埋めました。

 その数日後、私は夫と近所の大型スーパーに買い物に行きました。安い雑貨がたくさんおいてあるコーナーに小グマのように見える小さなぬいぐるみが大きなかごの中に、山のように積み上げられておいてありました。ひとつ1000円だったでしょうか。黒と黄色の二種類でした。通り過ぎると夫がいません。引き返してさがすと、そのぬいぐるみの黒い方を買おうとしています。ぬいぐるみフェチの息子に買ってやろうと思ったようです。無駄遣いの好きな夫はいつものように、さして深い考えもなしに買って帰ったのですが、それを見ると、息子は「クロちゃんが帰って来たんだ」と言うのです。ネコのぬいぐるみではないのですが、言われてみると、クロちゃんに似ているのです。夫はなぜ自分がそれを買ったのかが、よく分からない様子でクビをひねっていました。ぬいぐるみが連れて帰ってくれと、私とは異なり財布のひものゆるい夫に呼びかけたのかもしれません。クロちゃんのぬいぐるみは今もうちの棚にかざってあります。

 実はチビが他界した後、夫と一緒に偶然同じ店に行くと、クッションの安売りをしていました。毛足の長い丸いクッションで、焦げ茶とベージュの2色があるのです。ひとつ1000円だったでしょうか。とにかく安いのです。今度は私が何となく焦げ茶のクッションを買いました。帰宅して、椅子の上にそれを置くと、クッションがチビの寝姿に見える、と娘が言うのです。たしかに黒ブチの背中が茶色くなった晩年のチビによく似た色でした。クッションはチビが引っ掻いてぼろぼろにした椅子のぼろ隠しに置いてあります。

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