エッセイ

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「旅は道草」その12 イタリアは、あかるい  やぎ みね

2010.05.15 Sat

 イタリア初日の夜は、映画「終着駅」の舞台、ローマ・テルミニ駅近くに安宿をとる。夏の終わりの蒸し暑い夜。夕食の帰り道、駅近くの暗い通りに女の人が立っている。車がスーッと近寄り、男と何か交渉している。どうやら不調に終わったらしい。女が何か言い放ち、バタンとドアを閉めると、車はフルスピードで走り去った。

 イタリアの男はやさしい。地下鉄でバチカンに行く途中、向かいのシートに若いカップルの男女がいた。横に彼女がいるというのに、男が、わざわざ私にしゃべりかけてくる。ほらほら、隣の女の子が、指で突っついてるじゃないの。

 ナヴォーナ広場はローマっ子の遊び場。陽光の下で出店も並ぶ。映画のロケなのかな? 立ち見の野次馬でいっぱい。

 フィレンツェへ。ローマからIntercityで2時間。意外に近い。静かで落ち着いた古都の雰囲気。宿はアルノ川河畔、ポンテ・ヴェッキオから歩いて少し、Ferragamo本店のお隣。ブランドには興味がないけど、シンプルで、おしゃれなショーウィンドーが目を引いた。

 下町のサンタ・クローチェ教会近くの路地裏に、世界一おいしいアイスクリーム・Vivoliがあるという。ちょっと高いけれど、たっぷりと甘い、ジェラートだった。

 ヴェネツィアのサンタ・ルチーア駅へは陸路で入る。やっぱりヴェネツィアへは海から入らなくちゃ、値打ちがないな。

 グランドカナルを橋で結ぶ島々は、車が通らない分、ネコたちの天国。実に人なつこく、何か、もの言いたげに近寄ってくる。夕食は、おばさん一人で賄う「マルコ」という店。船乗りたちが4、5人、スパゲッティをアテにテーブルワインを何杯もあけている。1日の労働から解放され、ワイワイガヤガヤ、尽きないおしゃべりが、かしましい。

 ミラノ中央駅は1912年の設計、1925~31年、ムッソリーニの指示で建設されたファシズム建築。威容を誇るホームは、鉄とガラスで見事なアーチを描く。長さ72m、高さ36mもあるという。ミラノに着いた日は、国際見本市と重なり、ホテルは、どこも満室。シャワーもない安宿が、辛うじて空いていた。

 飛行機のリコンファームが必要だった頃。アリタリア航空に電話をかけるが、ずっとお話し中。仕方なく、ガリバルディ駅近くの本社へ行く。カウンターでリコンファームを申し込むが、スタッフは同僚とのおしゃべりに余念がない。

 でも、そのおかげで、いいお店にめぐりあえた。ここは昔の町並みらしい。確か、このへんにおいしいトラットリアがあったはずと地図で調べる。Trattoria della Pesa。そこのリゾットは絶品だった。北イタリア特有のバター風味が口の中で、やわらかく溶けた。

 ふと壁を見ると、ホー・チ・ミンの写真がある。「この写真、どうしてここに飾ってあるの?」「ホー・チ・ミンがフランス共産党にいた頃、この店に、しばらく滞在してたんだ」。
 1969年、ホー・チ・ミンの突然の死の後、1975年、ベトナム戦争終結から、もう30年あまりもたつんだと、とびきりのイタリアンを味わいつつ、考えた。

 イタリアは、あかるい。そしてイタリアは、おいしい。

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