稲田朋美元防衛大臣は、安倍首相の言う「女性の輝く社会」のシンボル的存在だったはずです。その女性が、さんざん問題発言を繰り返し、虚偽の答弁をし、防衛省を統率できなくて、辞任しました。実際に稲田氏は「輝い」たのか、このスローガンの中身が何であったのか、今回の辞任をめぐる新聞記事から検証してみます。

 まず安倍首相と稲田氏の位置づけなどを、7月28日、29日の朝日新聞(朝日)、毎日新聞(毎日)、信濃毎日新聞(信毎)3紙が表現した言葉で拾ってみます。

・首相が「将来のリーダー候補」として重用し(朝日7/28)

・野党は罷免を要求。そのたびに首相がかばってきたことから(朝日7/28)

・安倍首相が最も信頼する一人とされた稲田氏の……(朝日7/28)

・同党の国会対策委員会の幹部は「首相が稲田氏を守りに守りすぎて追い込まれた」と指摘。(朝日7/28)

・首相の「秘蔵っ子」で、将来の首相候補の一人として目をかけられてきた。(信毎7/28)

・答弁に窮する場面も目立ち、首相自身がたびたび助け舟を出さざるをえなかった。(信毎7/28)

・首相は政治信条の近い稲田氏に「将来の首相候補」と目をかけ、異例の抜てきを続けてきた。(信毎7/28)

・首相は日報問題で……罷免を拒み続けた。「寵愛」が目を曇らせたと考える以外に説明がつかない。(信毎7/28)

・「人事は国益にかなうかどうか冷酷であるべきだ。かばいすぎ、深追いしすぎのそしりは免れない」鴨下一郎元環境相は……重用してきた安倍首相の対応を公然と批判した。(朝日7/29)

・防衛省・自衛隊内が混乱しても「……」とかばい続けた。(朝日7/29)

・(首相がかばい続けてきたのは)◇自民党幹部「今村氏との差は……『かわいいから』しかない。(毎日7/28)

・首相は周辺に「防衛相という大変なポストを経ることは、首相をめざすうえで重要になってくる」と稲田氏を擁護。(朝日7/29)

 新聞で同じ語がつかわれているのは、どれかひとつに代表させています。つまりここに拾っ て太字にしたのは全部違う表現です。こうした表現を全部つないでみると、こうなります。

 安倍首相は、稲田氏を 最も信頼し、重用し、目をかけ、秘蔵っ子として寵愛してきました。2016年には防衛大臣として異例の抜てきをしました。大臣が答弁に窮するときは助け舟を出しかばってきました。度重なる大臣の失言にもかばい続け、野党の罷免要求からも守りに守り擁護したのは「かわいい」から。遅きに失した辞任は、かばいすぎ、深追いしすぎた結果だと自民党内からも批判されるに至っています。

 安倍首相の稲田氏に対するものすごい「かばい」と「守り」がはっきりしてきます。秘蔵っ子として寵愛する女性を守るために、すっぽりとベールで覆い、さらに日傘をさしかけるようなものです。これだけ守らなくては大臣の重責を果たせない人を任命したほうが悪いのはいうまでもないことです。でも、「女性の輝く社会」をスローガンとしている首相がそれに合う人として選んだ女性なのですから、そのスローガンを体現する人だと期待するのも自然なことでしょう。

 結果として稲田氏の輝く姿を見ることはできなかった。同時に安倍首相が誇らしげに言う「女性の輝く社会」の中身が見えてしまったのです。このスローガンの空々しさがはっきりわかりました。 女性をこういうスローガンに利用するのはいい加減やめてほしいものです。