中山千夏さんは1948年の7月生まれ。この本は2020年から2021年にかけて書かれたコラム集だ。つまり、71歳から73歳の千夏さん。あの中山千夏さんは70代の毎日をどう暮らしているんだろう。そう思ってちょっと覗いてみたら、なんだこれは、“老い”を思いきりエンジョイしているじゃないか。痛快でストレートな物言いは、「じゃりン子チエ」が婆さんになって現れたみたいな感じと言ったら、引っぱたかれるかな。
 たとえば、彼女はTVのCMを見ながら怒りを抑えきれない。

 **** 不愉快なのは、老人を対象にした薬モドキと化粧品の宣伝だ。半日も見ていると、それらはこう言っているとわかる。「ピカピカしてよく動く若者の肉体こそ正しい、シワだらけでうまく動かない老人の肉体は誤りである、よって老人は若者の肉体を保つべく努力しなければいけない」
 こんなCM作るやつら、並べておいて日の丸つきの張り扇で端からパチンパチンとはたきたい。どう逆立ちしても時間は逆戻りしない、という真理から、われらの目をそらせようとするフラチモノだから。(本文より)

   そう、時間は逆戻りしないのだ。この当ったり前の道理を前に、彼女は少しも怯むことなく、草花を愛で、友を思い、世の中の動きに気を揉む。

   **** 老化は一生一度の経験だ。もちろん幼年期も青年期も中年期も一生一度ではある。けれど老年期には、それらには望めなかった豊富な人生経験と、長年の間に培われた洞察力が備わっている。だから楽しい。私は最近、動作が減速している。そういえば昔見た老人たちは、みんなスローモーだった。ふむ、私は順調に老化している。(これも、本文より)

 なるほど、よく培われた洞察力から指摘されるあれこれに、いちいち感心させられてしまう。日本の警察は「正義」の旗さえ掲げれば暴走しかねないこと。「女の会議」こそが本当の会議だということ。そして、コロナ禍の2021年夏。あれほど反対の声が上がっても、オリンピック大会は強行され、私たちはそれを止められなかった・・・。「私たち今のオトナ」はこれでいいのか、と。  たとえ肉体は鈍化しても、感性は相変わらず研ぎ澄まされている。だから油断できないのだ、千夏さんは。ふむ、それが「順調」ということかしらん。

★書誌データ
書名 :ふむ、私は順調に老化している
著者:中山千夏
出版社:ハモニカブックス
刊行日:2021/10/29
頁数 :240頁
定価 :1650円(税込)